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2006年7月12日 (水)

ANOTHER STORY BLACKSIDE1

そんなことは、最初からわかっていた。

だけど、わかったからといって、じゃあいいですよあきらめますよというほど、俺たちはまだオトナじゃないだろう。

泣き叫んで地団太を踏むほどコドモでもないけど。



吉田佳奈。

めだつほどかわいいわけではない。

クラスで一番人気の女子は、いつもきゃっきゃはしゃいでいて、めだつ。髪の毛を巻いたりしていて、色つきのリップクリームなんかもつけていて、長いまつげを際立たせていて、ほんのりと何か香りをさせている。きっと、自分でもかわいいってことをわかっているのだろう、かわいさの見せ方を知っている。

それに比べて、吉田佳奈は地味だ。

運動部に入ってるわけでもないのに、潔いショートカット。誰の前でも大きなあくびなんか平気でしちゃってる。友達とふざけているときも、顔中くしゃくしゃにして大笑い。まるで色気ってものがない。

だけど、いつも背筋がすっと伸びている。

コイツ、ちゃんとしたら絶対キレイになるのにな。だけど、自覚がない。

話しても媚びたところがなくて、いつの間にかよく話すようになっていた。

仲のいいクラスメイト。吉田佳奈から見た俺はそんなものだろう。

俺から見てもそうだった。

いや、ちょっとだけ、それ以上だったか。

絶対キレイになると思って、なんとなく視線で追っていた。

「オマエ、誰がいいと思ってるの?」。友達に訊かれたときには、適当にクラスで3番目くらいにかわいい子の名前を答えておいたけど。面倒くさくないから。吉田佳奈を「いい」なんて言ったら、絶対変な噂をたてられる。

同じことを訊かれて、適当にとぼけた男がいた。

そいつ……甲斐は、いつもぼーっとしたヤツでつかみどころがない。

こうやって仲間内で打ち明けごっこみたいなくだらないことをしていても、乗ってこない。かといってつきあいが悪いわけでもない。話の途中で、気持ちがそれてしまったかのように、窓の外をぼーっと見ていたりする。

俺は、そんな甲斐が面白いと思って、時々見ていた。

だから気づいてしまった。

甲斐の視線は、よく吉田佳奈を捕らえている。

それとなく、さりげなく。

そのときだけ、瞳に強い意志を持って。

……好き、なんだ。

人の恋に気づくと、俺は妙にうろたえた。きっと、気づいているのは俺だけだ。甲斐は、それくらい静かに、だけど熱く、吉田佳奈を見つめている。

そんなふうに見ているくらいなら、打ち明ければいいものを。

なんだかむしゃくしゃする。

腹が立って、俺は、甲斐に見せ付けるように吉田佳奈と親しげに喋ってみた。そのときの甲斐の目は、俺を通り越して、吉田佳奈だけを映しているようだった。

後から俺は、少し落ち込んだ。

俺は、ガキか。



俺は、心配だったんだ。

甲斐と吉田佳奈は、どこか似ている。同じ空気を感じる。

吉田佳奈が気づいてしまったらどうしよう。

それは、あせりだった。

気づかせてはいけない。

俺はますますおどけて吉田佳奈に話しかけ、俺と吉田佳奈はますます「友達」になっていた。

「友達」になればなるほど、俺の気持ちは何だか別の方向に向かっていってしまう気がする。甲斐の視線にイラつき、俺自身にイラつく。

だけど何があったって、吉田佳奈に気づかせてはいけない。

おれ自身も気づいてはいけない。

パンドラの箱。

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