RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 7
やがて本当に雨が止んで、『自称・天使』が指さした方に虹が見えた。
大きな、まあるい虹。
そして、虹の向こうに咲く、赤い花。
それは少しずつ大きくなってきて、顔をぐちゃぐちゃに濡らしたカナが僕に駆け寄ってきて、僕に新しいビニール傘を押し付ける。
これは、夢なのか?
初めて見る、カナの泣き顔。ぐしゃぐしゃな泣き顔。
初めて聴く、震える声。僕の名前を呼ぶ声。
僕は、こんなに弱いカナを知らない。胸が痛む。
だから、やけにリアルで……
もう、夢でも何でもいい。カナが僕を呼んでくれるなら。
僕はめちゃくちゃにカナを抱きしめる。
そのきゃしゃな肩を、濡れた髪の毛を、小さなぬくもりを、久しぶりに感じるシャンプーの匂いを、夢だとしても苦しいくらい愛しく思う。
「夢じゃないよ」
『自称・天使』の声が耳元で聞こえる。姿は、見えない。
「傘のお礼だよ」
声は遠くなる。上だ。声は上にのぼってゆく。
ああ、天使は天に向かうんだ。光のさしてくる方へ。
「夢じゃ…ないのか…?」
僕はつぶやく。
だとしたら、どうしてカナが、僕の腕の中に?
いや、今は考えるのを止めておこう。『自称・天使』の傘のお礼、いや、カナからの傘のお礼?
何が何だかわからないから、ただただカナを抱きしめている。
夢だとしても離さないぞ。
夢じゃないならもっと離さないぞ。
強く強く抱きしめたら、カナが僕の腕の中で小さく呟いた。
寂しかったよぉ。
それはきっと、僕の方が。いや、寂しいとか、そういう言葉じゃない、もっともっと。
カナのいない3カ月間、僕は空っぽだった。
空っぽを、今、埋めている。
隙間にぴったりと入っているのは、カナの体だ。いや、体だけじゃない。カナの心も、カナの言葉も、カナの温度も、カナの寂しさも、カナの嬉しさも、全部全部僕の隙間にぴったりと、しなやかに寄り添うように、埋まってくる。このまま溶け合って、ひとつになってしまうんじゃないかと、僕に勘違いさせるほどに。
訊きたいことは、山ほどある。
だけど、今は。
こうしているだけでいい。
カナの吐息が、天使の羽音のように優しく響いて、僕はそっと微笑んだ。
また、雨が降り始める。もう、天使は落ちてこない。
いや、天使なら、僕の腕の中にいる。
今日は、自転車で、ふたり乗りで帰ろう。家まで送ってあげるから。
雨に濡れたってかまわない。
僕たちは、また、雨の日が好きになる。
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