NO WOMAN NO CRY 9
1ヶ月が過ぎた。
夏がじりじりと暑さを増している。
俺は、久しぶりに桃瀬に呼び出されて飲んでいた。桃瀬は少し、髪形を変えていた。
「おまえ、ちょっとイメチェン?」
訊いてみると、桃瀬は笑って俺の背中を叩いた。
「やだ、ノリ。考えすぎだよ。暑くなってきたから、ちょっと軽くしただけ」
「ふうん。そんなもんなんだ。じゃあ、もっと短くすればいいのに」
桃瀬はくすくす笑って、髪の毛をサラサラかきあげる。桃瀬には、やっぱり長い髪の毛が似合っている。
そういえば、初めて逢ったときには、髪の毛が真赤だった。なんだったんだろう、アレは。次に逢ったときには、今みたいな感じだった。黒くて、サラサラして、いい匂いのするような髪って、男から見ればいいなって思う。
そういえば、なな子がいつも言ってたっけ。桃瀬の髪の毛羨ましいって。あの子はくせっ毛だったから、いつもそれを気にしていた。
「何、遠い目して」
「ん? ああ、ちょっと」
桃瀬は、相変わらず綺麗だ。長い付き合いだった恋人と別れたばかりとは思えないくらいに。
でも、その綺麗な頬をつついたら、涙がこぼれ落ちるのかもしれない。ほんのり酔った桃色の頬は、もしかしたらチークパウダーの色なのかもしれない。
「何よ。本当に変なノリ」
桃瀬が怪訝な顔で俺を見る。たしかに、ぼんやりずっと黙って顔見てた。変、だよな。思わず吹き出した。
「悪い。おまえ、綺麗だよなって。もったいないなって思ってた」
「もったいない?」
「一緒にいるのが俺でさ」
桃瀬は、ううん、と大きなかぶりを振ると、俺の腕に抱きついてきた。
酔ってる?
友達のはずなのに。俺の胸は急に高鳴ってくる。最近はこんなに女の子とくっついたことなんて、なかった、だからだ。桃瀬だからドキドキしてるわけじゃあない。でも、急に意識してしまう、桃瀬は女の子なんだ。頬が赤らむ。
すっかり舞い上がっておどおどしていたから、しばらく気付けなかった。桃瀬が微かに震えていること。
「桃瀬?」
彼女は静かにしゃくりあげた。
「ノリ、あたし。苦しい」
頑張ってたんだよな。明るく振る舞って。可哀想に。
俺は、彼女の髪の毛を、そっと撫でる。
今度はきっと、大丈夫だから。桃瀬はいい子だから。絶対幸せになるよ。いいって顔のこと、だって? 顔もそりゃ、いいけど。スタイル? 見せてもらったことないな。でも、いいんじゃないのか。そんなんじゃなくってさ。俺、おまえのこと好きだよ。その、男と女っていうんじゃないけど。大切な友達だよ。いい子じゃなくても友達かもしれない、だって? そんなことないよ。俺、性格のいいヤツとしかつるまないって。え、磯島? 尚人か。あれは特別だよ。ガキのころから一緒だからな。それに、俺はあんなのと友達になりたくなかったんだぞ。だって、転校生だった俺のこと、年下だって教室から締め出そうとしたんだぜ、小学校2年のとき。1年生の教室はここじゃないって。そりゃ、俺チビだったし、アイツはでかかったけど、でもさ。おい、笑いすぎだぞ。俺マジで怒ったんだから。そんなに、おかしいか?
「ノリは本当に優しいね」
桃瀬のくちびるが、俺のくちびるに触れるのを、感じた。
『このまえはありがとう。元気でたよ』
桃瀬から、そっけないくらい短いメールが入っていた。
あいつにとって、あのキスなんて、きっとそんなものだったのだろう。俺は一瞬、友達としての自分を失うところだったけれど。
ちぇっ。
別にいいか。桃瀬はやっぱり、大切な友達だ。
。。。。。
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