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2006年11月 2日 (木)

NO WOMAN NO CRY 12

溺れる夢を見た。

白い波の中で、俺は溺れていた。

白。夏川カナコは、いつも白い服を着ている。それから、星野。あいつの横顔は、白くて儚い陶器のようだった。ああ、白。俺は。

目覚めると、俺は白の中にいた。真っ白なシーツが絡まりついていた。いつもと違う、見慣れない世界の中に。

愛穂が眠っていた。

俺は、混乱した頭を、必死で整理する。ここは、どこだ? どうして愛穂が? こんなことに。当然、そういうこと、だったんだろう。俺は。いったい、どうして?

痛むこめかみに、昨夜の記憶を少しずつ取り戻す。確かに、潤んだ瞳で無理に笑顔をつくる愛穂を愛しいと思った。この女の子を、笑顔に戻してあげたいと思った。守ってやりたいと思った。でも、それだけだった。まさか、こんなふうに。失恋した女の子に。

弱みに付け込んだ。いや、そんなつもりはない。俺はそんなに強引な男だったことはないはずだ。だけど、何にしても、弱くなった愛穂に対して、こんなことをしたんだから。何て言えばいいんだろう。

「……先輩?」

くぐもった声が、俺を呼ぶ。愛穂が、緊張した顔で俺を見ていた。

どうやって答えたらいいのかわからずに、俺は愛穂の髪の毛を撫でた。ただ、後輩として好きだっただけの女の子。傷つけてしまったのなら、絶対に償わなければいけない。何て声をかければ、いいんだろう。

「先輩、ごめんなさい」

愛穂の声がぼんやりと響く。

「ごめんなさいって?」

自分の声が間抜けに聞こえる。どうしてこんなに、間の抜けた言葉が出てくるんだろう。格好いい言葉が出てこない。

愛穂が、不意に俺の胸に抱きついてくる。動揺しながらも、俺は本能でその女の子を支えている。柔らかい肌、女の子の甘い匂い。自分が高まってくるのを感じる。ヤバい。どうにか理性で押さえつける。

「あたしが、誘ったんです。先輩は悪くない。だから、そんな顔、しないでください」

え? それは、いったい。

じゃあ、俺は、誘われて。のこのことついてきて。そして、いたいけなこの女の子と。そんな。

淡い色合いの記憶の片隅に、微かに残っていた。確かに、誘われた。だからと言って、俺は。自暴自棄になっていただけの女の子に。そんな子の誘いにのったっていうのか。

頭の中では、いろんなものを打ち消したくて、自分が情けなくて、泣きたいような思いを抱えていたというのに。そのときの俺がしたことといえば。

愛穂のことを抱きしめて、なお一層の自己嫌悪に陥るための行為を始めただけだった。



なんてことをしてしまったんだ。

確かに昨夜は酔っていた。それだって、許されることではないというのに。今朝のことは。俺が。彼女を。

求めるほどに好きだったとは思えない。そんな種類の好きではなかった。なのに。どうして。

愛穂は、嫌な顔なんて、しなかった。それが余計に、俺の自己嫌悪に油を注ぐ。眉根を寄せて甘いため息を押し出す彼女を、俺は冷めた目で見ていた。

なんてことをしたんだ。

俺は、ばかだ。

。。。。。

尚人が来た。ドアの鍵を開けなかった。

桃瀬から電話が来た。

タクから電話が来た。

愛穂から電話が来た。

どれも出なかった。

メールも開かなかった。

あげく、携帯電話をぶち壊した。

なんて俺は弱いのだろう。どうして俺は弱いのだろう。みんな、ちゃんとしっかり自分の道を生きているのに。俺だけがふらふらと、ただの後輩を抱いてしまったりするのだから。

俺は、最低だ。

。。。。。

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