NO WOMAN NO CRY 5
久しぶりに、女とふたりで飲んだ。
女っていっても、古くからの友達だけど。
「なぁ、桃瀬。愛穂がさ、なな子のこと小樽で見かけたって言ってたんだけど」
「ふうん」
桃瀬はつれない。赤い色のカクテルを、同じ色の唇に運んでいるだけ。華奢なグラスは、桃瀬に似合っていた。
こいつは、一緒にいるのが俺、っていうのが申し訳ないくらい、綺麗で大人だ。性格はさっぱりしているから、喋ってしまえば男同士のように気楽に付き合っていられるけど。
「おまえ、なな子の居場所、知ってるんだろ」
桃瀬は、チラッと俺を見る。
「磯島が知りたがってるってわけ?」
「違うよ。あいつは最近、別なオンナと」
言いかけて、慌てて口をつぐむ。別につきあってるわけでもないだろう。
ただ、なな子のことに、関心を示さなかっただけだ。
「ねぇ、ノリ。どうしてひとは、ひとつのところにずっといられないんだろう」
桃瀬がぽつんとつぶやく。
「あたしたちくらいの年になってくると、思い出が重くなってくるよね」
「俺、最近そう思ったよ。忘れたいことが多すぎるって」
「そうだね。記憶の消しゴムがあってさ、嫌なことゴシゴシ消せたら、どんなに気持ちいいだろうね」
それきり急に黙り込んだ桃瀬を見ると、彼女は微かに瞳を濡らしていた。俺は驚いて、何か声をかけようと思うけれど、うまい言葉が出てこない。
自分が情けなくてむかついていると、桃瀬は少し笑った。
「いいよ、無理して喋らなくても。ノリはね、側にいてくれるだけでいいんだ。ノリだけは変わらないから、安心できるの」
言葉が見つからない。
桃瀬がこんなに弱いところを見せるなんて。
何があったというのだろう。
やっとの思いで、彼女の彼の名前を見つけて話してみる。
「そうだ。タク、どうしてる?」
言ってしまってから気がついた。桃瀬を泣かせる原因なんて、きっとタクにしかないってことに。
「……ごめん」
ううん、と桃瀬は首を振る。
そして、もう一度呟いた。
どうして、ひとは、ひとつのところに、ずっといられないんだろう。
。。。。。
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