RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 1
雨の日は嫌いだ。
と、言い切ってしまうことはカンタンだ。
だいいち、じめじめして暗くって、憂鬱じゃないか。
だけど、そんな理由じゃないんだ。
雨の日は嫌いだ。
昼過ぎから、急にザーザー降り出した雨。
僕は壊れたビニール傘をさしながら、帰り道、自転車をぶっ飛ばしていた。
今朝の天気予報で、雨が降る、なんて言ってたか?
……言ってた、ような気がする。じゃあ、こんな日に自転車で来た僕が悪いのか。
制服のシャツが、ズボンが、次第に水を含んで重くなる。
風がそんなにないのが救いだが、よりによって緩い上り坂だ。ダブルの意味で、足はどんどん重くなる。
雨は、ますますどしゃ降り。骨の折れた傘なんて、全然役に立ちゃあしない。
「きゃっ!」「うわっ!」
軽い衝撃。
ヤバイ、何か、撥ねた!?
自転車を降りて、駆け寄る。
「す、すみません、大丈夫…で……」
なんだ、こりゃ?
小さい人の形の…人形? え? 動いてる? 足をさすってる?
「痛いなぁ、気をつけてよ。って、上から降ってきたら、わかんないか」
僕を軽く睨んで、また足に目をやって…人形が? いや、人形じゃないのか?
「何ぼ-っと見てるのよ。女の子が倒れてたら、起こしてあげるものでしょう?」
「あ、ああ、ハイ……」
手を貸す…けど。コレ。こどもでもないだろう。体長約50センチメートル。
ま、ま、まさか化け物か!?
それ、は立ち上がると、犬かなんかのようにぷるぷると体を震わせて水しぶきを撒き散らし、その背中の羽を…って。羽!?
「ああ、アタシ、天使なの」
はァ!?
…あ、夢だ。夢だろう。夢だよな。
こんなずぶ濡れの夢があるのかどうかビミョーだけど。こんな現実のほうがないだろう。
「全く、やんなっちゃう。雨に濡れると、羽が重くなって落っこちちゃうのよね」
ブツブツ呟きながら、羽を繕っている。
ははは、天使が雨と一緒に降ってくるんだ。変なの。
そりゃそうだ、夢だから。これは夢なんだもんな。変な夢。
僕もブツブツ呟きながら、その『自称・天使』に傘をさしかける。
骨が2本も折れてぶらぶらしてる。こんな傘、さっさと捨ててしまえばよかったのに、後生大事にロッカーの奥底に閉じ込めておいた。夢にまで出てきてしまうのか、こんな傘が。
僕にとって、雨と言えばこの傘、なんだろうか? いまだに、心の奥底では。
『自称・天使』は、水鳥のように羽を整えている。その横顔がカナに似て……夢とはいえ、僕もしつこいな。
あれからもう、3カ月も経っているのに……。
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