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おはなし☆雨の日の話

2006年7月12日 (水)

RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 1

雨の日は嫌いだ。

と、言い切ってしまうことはカンタンだ。

だいいち、じめじめして暗くって、憂鬱じゃないか。

だけど、そんな理由じゃないんだ。

雨の日は嫌いだ。



昼過ぎから、急にザーザー降り出した雨。

僕は壊れたビニール傘をさしながら、帰り道、自転車をぶっ飛ばしていた。

今朝の天気予報で、雨が降る、なんて言ってたか?

……言ってた、ような気がする。じゃあ、こんな日に自転車で来た僕が悪いのか。

制服のシャツが、ズボンが、次第に水を含んで重くなる。

風がそんなにないのが救いだが、よりによって緩い上り坂だ。ダブルの意味で、足はどんどん重くなる。

雨は、ますますどしゃ降り。骨の折れた傘なんて、全然役に立ちゃあしない。

「きゃっ!」「うわっ!」

軽い衝撃。

ヤバイ、何か、撥ねた!?

自転車を降りて、駆け寄る。

「す、すみません、大丈夫…で……」

なんだ、こりゃ?

小さい人の形の…人形? え? 動いてる? 足をさすってる?

「痛いなぁ、気をつけてよ。って、上から降ってきたら、わかんないか」

僕を軽く睨んで、また足に目をやって…人形が? いや、人形じゃないのか?

「何ぼ-っと見てるのよ。女の子が倒れてたら、起こしてあげるものでしょう?」

「あ、ああ、ハイ……」

手を貸す…けど。コレ。こどもでもないだろう。体長約50センチメートル。

ま、ま、まさか化け物か!?

それ、は立ち上がると、犬かなんかのようにぷるぷると体を震わせて水しぶきを撒き散らし、その背中の羽を…って。羽!?

「ああ、アタシ、天使なの」

はァ!?

…あ、夢だ。夢だろう。夢だよな。

こんなずぶ濡れの夢があるのかどうかビミョーだけど。こんな現実のほうがないだろう。

「全く、やんなっちゃう。雨に濡れると、羽が重くなって落っこちちゃうのよね」

ブツブツ呟きながら、羽を繕っている。

ははは、天使が雨と一緒に降ってくるんだ。変なの。

そりゃそうだ、夢だから。これは夢なんだもんな。変な夢。

僕もブツブツ呟きながら、その『自称・天使』に傘をさしかける。

骨が2本も折れてぶらぶらしてる。こんな傘、さっさと捨ててしまえばよかったのに、後生大事にロッカーの奥底に閉じ込めておいた。夢にまで出てきてしまうのか、こんな傘が。

僕にとって、雨と言えばこの傘、なんだろうか? いまだに、心の奥底では。

『自称・天使』は、水鳥のように羽を整えている。その横顔がカナに似て……夢とはいえ、僕もしつこいな。

あれからもう、3カ月も経っているのに……。

RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 2

カナと僕は、隣の席だった。

さらさらとしたショートヘアに、特別大きいわけじゃないけど意志の強い瞳。陶器のように滑らかなあごのライン。きゃしゃな手首。

たぶん、初めて見たときから、僕はカナに心魅かれていた。

でも、話しかけることさえできなくて……いつも横顔だけ見ていた。

友達とふざけて笑い合う顔、難しい問題を解いているときにちょっと尖らせる癖のある唇、あくびをしたあとのほわんとした涙目。

いつの間にか、僕の胸の中にはカナの横顔がいっぱいに詰まっていた。

だから、僕の真正面に、後ろ手に手を組んで小首をかしげたカナが、鼻の上にちょっとしわを寄せたいたずらっぽい笑顔を浮かべて立っていたとき、一瞬それが誰だかわからなかった。

「キミって、いっつもぼんやりしてるよね」

そういえば、カナの声は少し低い。そんなことをぼんやり考えていて、僕は返事もできなかった。

ただただぼーっとしている僕のことがよっぽどおかしかったのだろう、カナはケラケラと笑い声を立てた。

「あのね、雨が降ってきちゃって」

正面から見ると、ほんの少しそばかすがあるのがわかる。

「もし傘、持ってるなら」

窓の外を指している細い指。強く握ったら、折れてしまうんじゃあないだろうか?

「駅まで、入れてってくれない?」



いままで、こんなに緊張したことがあるのだろうか。

右手と右足が一緒に出たりしないように細心の注意を払いながら、僕はカナに傘をさしかける。

壊れかけた、安物のビニール傘。2本も骨がぐにゃりと曲がっている、そんな傘。よりによって。

もっといい傘を持ってきとけばよかった。

それに、この傘は小さすぎる。カナが濡れてしまう。

緊張して傘をさしている僕を、カナはくすくす笑って覗き込んだ。

「ちゃんとささないと、キミが濡れちゃうよ」

そう言って、カナは僕から傘を奪った。そして、僕にさしかけてくれた。

カッコイイこと言って、カナから傘を取り返せたらよかったけど。情けないけど僕は、されるがままだ。

横顔しか知らなかった女の子。正面から見る勇気さえなかった僕。

カナの話すことに、ああ、とか、うう、とか、ばかみたいな返事を繰りかえしながら、僕の耳はカナの発するどんな一言も、吐息の一つまで漏らすまいと必死で機能していた。きっと、このときの僕の耳は、どんな動物よりも敏感に反応していたに違いない。いや、耳ばかりじゃなく、目も、鼻も、五感の全てが、それぞれのスペシャリストよりも発達していただろう。

「あ、もう駅」

だけど、こんな夢のような出来事にも終わりはある。

「入れてくれてありがと」

カナは傘を綺麗にたたんで、僕に返してくれた。

僕だけに向けられた笑顔。

そのとき。

僕は、自分自身に驚いた。そんな勇気があるなんて。

僕はカナの手を取ると、その手に傘を握らせた。

その手は、いままでに触れたどんなものより、小さく、冷たく、愛しかった。

「これ、使ってよ」

「え、でも、キミが…」

「大丈夫。駅からすぐ近くなんだ」

そう言って、カナの手を強くぎゅっと握って、僕は駅の外に駆け出した。

「ありがとう!」

カナが、いっぱいの笑顔で、僕に手を振っていた。

さっきまでの笑顔より、全然笑顔だ。

僕の家は、この駅の近くなんかじゃ全然ない。だから、僕はずぶ濡れになってしまって、だけど僕はあと何十キロメートルでも走っていけるような気分だった。いや、あの雨雲の向こうまで飛んでいくことさえできるような気分だった。

あの日から、僕は、雨の日が好きになった。

RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 3

次の日。申し訳なさそうに、カナは2本のビニール傘を僕に手渡した。

「ごめんね、傘、昨日、壊しちゃって。これ、新しいの。使って」

曲がっていた2本の傘の骨が、見事にポキリと折れていた。

こんな壊れた傘、わざわざ持ってくることもないだろうに。

新しい傘も、律儀なまでに同じ透明のビニール傘。わざわざ、いいのに、そんなの。

「いや、いいよ。もともと壊れかけだったし」

「でも」

「じゃあ」

僕は不意に、昨日のカナの小さな冷たい手を思い出す。

「じゃあ、また君が傘を忘れたときには、この新しい傘を使うよ」

なんて気障なことを言ったものだろう。顔から火が吹き出そうだ。

だけどカナは、きっと僕より頬を赤くして、はにかんだ。



それから、僕はカナと親しくなった。

クラスメイトとして、だけど。

僕の胸の中には、横顔のカナよりたくさんの、僕のほうを向いたカナが詰まってきていた。

くしゃっとした笑顔、僕が意地悪なことを言うと少し下唇を突き出す癖、失敗したときにチラッと見せる赤い舌、いたずらっぽくくるくると動く瞳。

それだけじゃあない。たくさんの言葉たち、笑い声、僕のノートのすみっこに勝手に書いてあった落書き、貸してくれたCDや、全てが。

いっぱい、いっぱい詰まりすぎて、はちきれそうだ。

はちきれそうだったんだ。

RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 4

雨の日。

無意識に、いや意識的に。僕は横目でカナの荷物を盗み見る。

赤い傘。ちゃんと持ってきている。

そりゃそうだ、今日は朝から雨だった。

だけど、帰りがけ、カナはいつものように後ろ手に手を組んで、小首をかしげて、鼻の上にちょっとしわを寄せたいたずらっぽい笑顔で僕を覗き込んで、僕にだけ聞こえるような声で言った。

新しい傘のさし心地、試したいな。



毎日が雨でもいい。

僕はそう思った。

初めて一緒に帰ったあの日よりも、僕らの距離は近づいている。

時々、僕の右腕はカナの左腕にぶつかり、うれしいような、恥ずかしいような、申し訳ないような、晴れがましいような、ぐちゃぐちゃな気持ちになったけど、結局はうれしさが勝っていた。

傘からはみ出ている僕の左肩も、カナの右肩もめちゃめちゃ濡れたけど、それさえもふたりには笑いごとだった。

「すっげー、さし心地悪い傘」

「ひっどーい。そんなこと言うなら返してよ」

ふざけては、笑い合った。

笑うたびに、僕の右腕はカナの左腕にあたった。

このまんま雨が降り続けて、このまんま道が続けばいいと、思った。

RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 5

次の日も雨だった。

カナは、赤い傘をさして帰った。

いつもいつも僕とふざけあうほど、暇でもないのだろう。

今日は、僕の左肩は、濡れない。

だけど、だからどうしたというのだ。濡れないことより大切なことを、僕は知ってしまった。

横顔しか見ることができなかった、臆病な僕。今は、笑いながら話すことができる。でも、僕はまだ臆病だ。もし僕に勇気があるなら、自分から、一緒に帰ろうと誘えるはずだから。

もし明日も雨が降ったら、今度は僕が誘ってみよう。

さし心地悪い傘だけど、入っていかないか?

…変な誘い方だな。

もうちょっとマシで、気が利いてて、カナが顔をくしゃっとして笑い出すような、カッコイイ誘い方ってないのかな?

そんなことをぼんやりと考えながら、昨日はカナと歩いた道をなぞるように歩いている。

ここでカナが僕の右腕に触れて心臓が飛び出すくらいどきどきしたんだとか、ここでカナが道端で濡れている花を見て「寒そうだね」って言ったんだとか、小さなことを反芻してみる。

僕の胸の中は、カナでいっぱい、いっぱいだ。

だから、信号の向こうに赤い傘が揺れていたとき、本物のカナがいるとは一瞬、思わなかった。

僕が作り出した幻だと思った。

それほどに幻想的だった。

雨に煙った空気のなかひっそりと咲いていて、それはとてもカナらしいと思って、僕はそのことを早くカナに伝えようと思って、信号を渡った。

でも、気づくと、花は一輪じゃあなかった。

赤い傘の隣には、大きな黒い傘。

男物。

あれは。

見慣れたはずのカナの横顔が、いつもと違って見えた。

伏せたまつげが長くて、僕はこんなときだというのに、カナに見とれずにはいられなかった。

見とれていたせいか、全てがコマ送りで見えた。

赤い花が散るようにカナの傘がゆっくり落ちて、カナは黒い傘の中に引き込まれて、カナの困惑した瞳が揺れて。

そして……。

僕は。

いったい、どうしたというのだろう。

何をやっているのだろう。

気がつくと、ふたりに近寄っていて、落ちていた赤い傘を拾い上げていた。

「…あ…」

カナが慌てて、黒い傘から離れる。

だめじゃないか、離れたら濡れちゃうだろ?

「ハイ、これ」

赤い傘をさしかける。カナが濡れたりしないように。そして、新しいビニール傘、僕がひとりでさしていた傘、昨日はカナと一緒に入った、さし心地の悪い、だけど世界で一番素敵な傘も一緒に差し出した。

「ありがとう、楽しかった」

「何、言って……」

カナの声は、最後まで聞いていない。

僕は、走った。

初めてカナと一緒に帰ったあの日と同じくらい、いや、それ以上のスピードで走った。

あと何百キロメートルでも走れると思った。

いや、走りたいと思った。

走って走って、ずぶ濡れになって、肺炎にでもなればいい。

世界中が雨で満たされて、そのまま雨に溺れてしまえばいいと思った。



その次の日、偶然にも席替えがあって、僕とカナは教室のはじとはじに離れた。

これでよかったんだ。

カナが何か言いたそうに僕を見ていたのがわかったけど、僕は眠たいふりをして、机に顔を伏せた。

本当は少しも眠くなかったけど。

前の晩も全然眠れなかったのに、全然眠くないのだけど。

目を閉じると、黒い傘がまぶたの裏に浮かぶ。

戸惑ったカナの横顔も。

あのときの全てが、浮かぶ。

だから僕は目を開けたまま、机に顔を伏せていた。

RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 6

あれから3カ月。

昼過ぎから急に降り出した雨。

傘を持ってきていなかった僕は、しょうがなくロッカーに置きっぱなしにしていた傘を出したんだ。

あの日、カナと入った傘。

あの日、カナが壊した傘。

こんな傘、さしたってささなくたって変わらないだろう。

だけどこんなもの、いつまでも置きっぱなしにしていたら、きっといつまでも前に進めない。

今日使って、捨ててしまおう。

カナへの想いを断ち切ろう。

雨に流してしまおう。

そう思っていたら。



「何、ぼんやりしてるの?」

気がつくと、『自称・天使』が後ろ手に手を組んで、小首をかしげて、僕を見ていた。

それは、カナがいつもしていた仕草だったから、僕の胸は痛んだ。

カナに似ていたから、カナと同じ仕草をするから、僕の胸からはぱんぱんに詰まったまま行き場を失っていたカナの記憶が溢れ出した。

それと一緒に、僕の瞳からも、行き場のなかった想いが溢れ出した。

そんな僕を見て、『自称・天使』は鼻の上にちょっとしわを寄せていたずらっぽく笑った。

「もうすぐ雨が止むね」

止むのか、この雨が。止むもんか、この雨は。

雨なんか、大嫌いだ。

雨なんか、死んでしまえ。

「傘」

『自称・天使』は壊れた傘の下で、羽をふぁさふぁさと動かした。

その羽はあまりに白くて、まるで天使の羽のようだった……あ、天使なんだっけ。

「入れてくれてありがと」

カナと同じ話し方をする。

あのときのカナと、全部が一緒だ。少し低い声も、話し方も、表情も。

全部がカナと同じなんだ。僕の作り出した幻は。

「お礼に、1個、いいことしたげるよ」

「何だよ」

そういえばずいぶん長い夢だ、と思う。

そろそろ覚めてもいいんじゃないか? 僕はありえないくらいずぶ濡れだ。

それに、カナのことを思い出しすぎた。

もしかしたら、僕の枕が涙で濡れて、そのせいでずぶ濡れの夢なんか見ているんだろうか。まさか、な。僕はそんなにセンチメンタルなタイプではない、はずだ。

「あっちに、虹が出る」

『自称・天使』が指をさす。細い指。強く握ったら折れてしまいそうなほど。

「虹の向こうに、キミが欲しいものが見えてくる」

「僕の欲しいものは……」

きっと手に入らない。言いかけた僕を途中でさえぎると、『自称・天使』はいたずらっぽくウィンクした。

「だいじょぶ、アタシ、天使なんだから」

RAINY DAY ~雨の降る日に降る天使 7

やがて本当に雨が止んで、『自称・天使』が指さした方に虹が見えた。

大きな、まあるい虹。

そして、虹の向こうに咲く、赤い花。

それは少しずつ大きくなってきて、顔をぐちゃぐちゃに濡らしたカナが僕に駆け寄ってきて、僕に新しいビニール傘を押し付ける。

これは、夢なのか?

初めて見る、カナの泣き顔。ぐしゃぐしゃな泣き顔。

初めて聴く、震える声。僕の名前を呼ぶ声。

僕は、こんなに弱いカナを知らない。胸が痛む。

だから、やけにリアルで……

もう、夢でも何でもいい。カナが僕を呼んでくれるなら。

僕はめちゃくちゃにカナを抱きしめる。

そのきゃしゃな肩を、濡れた髪の毛を、小さなぬくもりを、久しぶりに感じるシャンプーの匂いを、夢だとしても苦しいくらい愛しく思う。

「夢じゃないよ」

『自称・天使』の声が耳元で聞こえる。姿は、見えない。

「傘のお礼だよ」

声は遠くなる。上だ。声は上にのぼってゆく。

ああ、天使は天に向かうんだ。光のさしてくる方へ。

「夢じゃ…ないのか…?」

僕はつぶやく。

だとしたら、どうしてカナが、僕の腕の中に?

いや、今は考えるのを止めておこう。『自称・天使』の傘のお礼、いや、カナからの傘のお礼?

何が何だかわからないから、ただただカナを抱きしめている。

夢だとしても離さないぞ。

夢じゃないならもっと離さないぞ。

強く強く抱きしめたら、カナが僕の腕の中で小さく呟いた。

寂しかったよぉ。

それはきっと、僕の方が。いや、寂しいとか、そういう言葉じゃない、もっともっと。

カナのいない3カ月間、僕は空っぽだった。

空っぽを、今、埋めている。

隙間にぴったりと入っているのは、カナの体だ。いや、体だけじゃない。カナの心も、カナの言葉も、カナの温度も、カナの寂しさも、カナの嬉しさも、全部全部僕の隙間にぴったりと、しなやかに寄り添うように、埋まってくる。このまま溶け合って、ひとつになってしまうんじゃないかと、僕に勘違いさせるほどに。

訊きたいことは、山ほどある。

だけど、今は。

こうしているだけでいい。

カナの吐息が、天使の羽音のように優しく響いて、僕はそっと微笑んだ。



また、雨が降り始める。もう、天使は落ちてこない。

いや、天使なら、僕の腕の中にいる。

今日は、自転車で、ふたり乗りで帰ろう。家まで送ってあげるから。

雨に濡れたってかまわない。

僕たちは、また、雨の日が好きになる。


ANOTHER STORY

隣の席の男の子は、いつだってぼんやりしている。

休み時間も、友達と騒いでいるより、ひとりでぼんやり風に吹かれていることが多い。

授業中も時々うわのそらで、窓の外を眺めている。

何を見てるのかな。空の色? 雲の形? 時折、口元に浮かぶ微笑みは、何かを考えているせい?

私も、なんとなく窓の外に目を向ける。

空って、こんなに大きかったんだ。雲って、こんなにも形を変えるんだ。

見ていて飽きることはない。彼が微笑んでいるのがわかる気がする。だって、ホラ、あの雲の形、ドーナツみたいじゃない? おなかすいてきちゃう。

彼もそんなことを考えているんだろうか。

なんだか隣の席の男の子が、好ましく思えた。



今日も彼はぼんやりしている。

話しかける友達に相槌を打ちながら、窓の外に視線を走らせる。

いつか話しかけてみたいと思いながら、まだ話しかけられずにいるのは、時々彼がものすごく大人なんじゃないかと感じているせい。同じ年の男の子はみんな、子供っぽく感じるけど、なんだか彼は違う。ただぼんやりしているようにも見えるけど、何かほかの人とか違うものを見ているようにも見える。例えば、窓から入ってきた風にふと目を細める瞬間に、このひとは風を見ているんだ、と感じる。本当のところは知らない。訊いてみたい。

ふと、そのとき、彼の後ろ頭に、ちょっぴり寝癖があるのが目に入った。

それを見た瞬間。心の中に、何かが入った。



小さな棘がささっている。

ちくちくと痛む。

ちくちくちくちく。

私は病気ですか?



今日も雲は形を変える。

今日も彼はぼんやりと空を眺めている。

私もつられて空を見る。

今日の雲は重たい灰色で、なんだか気分が暗くなる。帰る頃には、きっと、雨。

雨はいやだなぁ。制服が湿っぽくなるし、気分も憂鬱になる。

あ、今日もドーナツ型の雲。

……違う? ドーナツじゃなくて、あれは。



精一杯の勇気で、放課後、彼の前に立つ。

「キミって、いっつもぼんやりしてるよね」

上ずりそうな声を抑えると、自分でも驚くほど低い声が出た。

そんな私を、きょとんとした顔で見ている彼を見ていたら、なんだかおかしくなってきた。案外、子供っぽい顔をするんだね。いつも横顔を見ていたから、知らなかった。

そんなことを考えたら少し笑うことができて、次の言葉がするすると出てきた。

「あのね、雨が降ってきちゃって」

いつも外見ているから、知っているよね。だけど、指先が震えそうだったから、力を入れて指をさす。

「もし傘、持ってるなら」

彼の視線が指先の方に移っていったから、ますます指先が震えそう。

「駅まで、入れてってくれない?」



彼の傘は小さなビニール傘で、こんなどしゃ降りの日にどうしてこんなお願いをしてしまったのだろうと、今更ながら後悔した。

見上げた彼の横顔は、いつもと違って、なんだか少年のように見える。

戸惑っている? 初めて話したのに、ずうずうしいお願いをされたせいで? でも、嫌がっているわけじゃないと思いたい。だって歩幅を合わせてくれる。困っている? だけど、私が濡れないように、傘をさしかけてくれている。慣れていない? 唇をきゅっと結んで、まっすぐ前だけを見ている。不自然なくらいに。

私は、彼から傘を取り上げた。

「ちゃんとささないと、キミが濡れちゃうよ?」

彼は、左半身ずぶ濡れだった。

なんだか不思議。彼が子犬のような目で私を見るから、私に任せて、って気分になってくる。彼に傘をさしかけながら、私はくだらないことをたくさん話した。

彼は、どこかうわのそらな返事を繰り返しながら、それでも優しい目で私を見てくれるから、私は話し続けていられる。このまま、道がいつまでも続けばいいと思った。

だけど、どんな時間にも終わりがある。

「あ、もう駅」

ため息のように出てしまった言葉。彼も息をついたのがわかった。

「入れてくれてありがと」

声が震えそうになったから、なるべく棒読みでお礼を言った。

少しでも時間を長引かせたくて、ゆっくりと傘をたたんだ。

そして、ゆっくりと傘を返す、と。

彼はすばやくその傘を、私の手に握らせた。彼の手が、私の手を包み込む。

たった今まで、私に任せてなんて思ってた。

だけど、違う。

私は、守られている。

小さな棘が痛み出す。

ちくちくちくちく。

「これ、使ってよ」

声が私を包み込む。

ちくちくちくちく、泣き出しそう。

「でも、キミが…」

「大丈夫、駅からすぐ近くなんだ」

笑顔が私を包み込む。

ちくちく…ズキズキ…ドキドキドキ。

手をぎゅっと握って、その後彼は駆け出した。

私の手に残る、力強さ、ぬくもり。

「ありがとう!」

泣き出しそうな心を抱えて、私は上手に笑えていましたか?

びしゃびしゃに濡れて小さくなっていく彼の後ろ姿を見送りながら、私はありがとうと呟いた。

彼にも、勇気をくれた天使にも。



ドーナツ型の雲は、あれは天使の輪だった。

ドーナツ型の下には、ちいさな体と、そして、羽。



あの日刺さった、小さな棘。

私の中で、確かに芽吹いている。

微かで甘やかな痛みと、ときめきと。

うれしくて振り回して壊してしまった借りた傘と、さっき買ったばかりの真新しい傘を手にして、私はもう、明日話す言葉を探している。

ANOTHER STORY BLACKSIDE1

そんなことは、最初からわかっていた。

だけど、わかったからといって、じゃあいいですよあきらめますよというほど、俺たちはまだオトナじゃないだろう。

泣き叫んで地団太を踏むほどコドモでもないけど。



吉田佳奈。

めだつほどかわいいわけではない。

クラスで一番人気の女子は、いつもきゃっきゃはしゃいでいて、めだつ。髪の毛を巻いたりしていて、色つきのリップクリームなんかもつけていて、長いまつげを際立たせていて、ほんのりと何か香りをさせている。きっと、自分でもかわいいってことをわかっているのだろう、かわいさの見せ方を知っている。

それに比べて、吉田佳奈は地味だ。

運動部に入ってるわけでもないのに、潔いショートカット。誰の前でも大きなあくびなんか平気でしちゃってる。友達とふざけているときも、顔中くしゃくしゃにして大笑い。まるで色気ってものがない。

だけど、いつも背筋がすっと伸びている。

コイツ、ちゃんとしたら絶対キレイになるのにな。だけど、自覚がない。

話しても媚びたところがなくて、いつの間にかよく話すようになっていた。

仲のいいクラスメイト。吉田佳奈から見た俺はそんなものだろう。

俺から見てもそうだった。

いや、ちょっとだけ、それ以上だったか。

絶対キレイになると思って、なんとなく視線で追っていた。

「オマエ、誰がいいと思ってるの?」。友達に訊かれたときには、適当にクラスで3番目くらいにかわいい子の名前を答えておいたけど。面倒くさくないから。吉田佳奈を「いい」なんて言ったら、絶対変な噂をたてられる。

同じことを訊かれて、適当にとぼけた男がいた。

そいつ……甲斐は、いつもぼーっとしたヤツでつかみどころがない。

こうやって仲間内で打ち明けごっこみたいなくだらないことをしていても、乗ってこない。かといってつきあいが悪いわけでもない。話の途中で、気持ちがそれてしまったかのように、窓の外をぼーっと見ていたりする。

俺は、そんな甲斐が面白いと思って、時々見ていた。

だから気づいてしまった。

甲斐の視線は、よく吉田佳奈を捕らえている。

それとなく、さりげなく。

そのときだけ、瞳に強い意志を持って。

……好き、なんだ。

人の恋に気づくと、俺は妙にうろたえた。きっと、気づいているのは俺だけだ。甲斐は、それくらい静かに、だけど熱く、吉田佳奈を見つめている。

そんなふうに見ているくらいなら、打ち明ければいいものを。

なんだかむしゃくしゃする。

腹が立って、俺は、甲斐に見せ付けるように吉田佳奈と親しげに喋ってみた。そのときの甲斐の目は、俺を通り越して、吉田佳奈だけを映しているようだった。

後から俺は、少し落ち込んだ。

俺は、ガキか。



俺は、心配だったんだ。

甲斐と吉田佳奈は、どこか似ている。同じ空気を感じる。

吉田佳奈が気づいてしまったらどうしよう。

それは、あせりだった。

気づかせてはいけない。

俺はますますおどけて吉田佳奈に話しかけ、俺と吉田佳奈はますます「友達」になっていた。

「友達」になればなるほど、俺の気持ちは何だか別の方向に向かっていってしまう気がする。甲斐の視線にイラつき、俺自身にイラつく。

だけど何があったって、吉田佳奈に気づかせてはいけない。

おれ自身も気づいてはいけない。

パンドラの箱。

ANOTHER STORY BLACKSIDE2

だけど、吉田佳奈は恋をした。

甲斐の視線を捕らえたからではないけれど、何かのきっかけで。

俺にはわかる。

吉田佳奈は恋をしている。

醸し出す雰囲気が、一瞬にして変わった。

やわらかい、甘い空気。

その香りは、俺にまで伝播してくる。

「吉田って、結構いいよな」

今まで吉田佳奈に目もくれてなかったやつらまで、急に騒ぎ出すようになった。

俺は、最初から気づいてたさ。……言えなかったけど。



ある日、普通に話していると、吉田佳奈が不意に言った。

「菊池くんって、みなみちゃんのことが好きなの?」

みなみちゃん? ああ、ずいぶん前に、誰をいいと思うか訊かれたときに、適当に答えた名前だった。

そういえば、吉田佳奈とは結構仲がいい、感じだった。

「好きっていうか……かわいくない?」

無難だと思われる返事をしておく。それに、河本みなみの栗色のつやつやした髪とくるくるした大きな目は、確かにかわいいと思う。だけど、本音を言えば、目の前にいる女の子の無自覚なかわいさにどきどきしている。

ホントに俺のこと、なんとも思ってないだろ? そうじゃなかったら、そんなに無防備でいられないだろ?

甲斐が、絶対に知らない、吉田佳奈。

少し尖らせた唇の紅さに、一瞬理性を失いそうになる。

「そっかぁ。みなみちゃん、かわいいもんね」

完全に、俺のこと見てないよね、今。

視線はこっちにあるけど、心がどこかに飛んでいる。

「みなみちゃんは、声もかわいいもんなぁ」

「でも、吉田は吉田で、結構いいとこあると思うけど。甲斐だって」

急に甲斐の名前を出した俺に、吉田佳奈は驚いている。もちろん、俺のほうが驚いている。なんのために、今、こんなところで。

でも、言いかけてしまったものは止められない。

「甲斐だって、そう思ってる……と……思う……」

完全に、後押ししてる状態じゃないか。

ばかだ、俺。

だけど、笑顔が見たかった。自信なさげにつぶやく女の子が一番かわいいってことを知らせてあげたかった。好きになった女の子の、とびきりの笑顔が見たかった。

だからって言って……ばかだ、俺。

「え……なんで……」

赤くなって動揺する吉田佳奈。

わかっていたことだけど、わかっていたことだけど、今更の痛みが胸に降り注ぐ。

ばかだ、ホントばかだ、俺。

喉の奥から熱いものがぐっときそうになったから、慌てて笑って、吉田佳奈のきゃしゃな背中を叩く。

どんなに気持ちを込めたとしても、親愛の情しか伝わらない態度。

友達の距離。

何やってるんだよ、俺、ホントに。

「ありがと。菊池くんっていいひとだよね」

いいひと……いいひとって。大嫌いって言われるより、今の俺にはリアルでキツかった。

それでも吉田佳奈の笑顔を見ることができてよかったなんて思ってしまった俺は、世界中の誰が見てもばかな男だったろう。



そのころからだったか、そのまえからだったのか、吉田佳奈はよく甲斐と喋るようになっていた。

別につきあっているふうではなかったけど。

俺はぼんやりと、ふたりが喋っている横顔を見ていた。

さっさとつきあってしまえばいいのに。

そしたら、少しは楽になれるかもしれない。あきらめがつくっていうか。

なんで気付かないかな、なんで言わないかな、ふたりとも。

なんでこうやっていつまでも見てるかな、俺も。

早いとこあきらめて、次に行けばいいのにな。

女の子は教室の中にも外にもいっぱいいるわけだし。吉田佳奈よりかわいい子だって、それこそ河本みなみでもなんでも、たくさんいるわけだし。

だけど。あきらめきれないのは、まだ可能性を信じているせいか。

「いいひと」が「好きなひと」になることは。

まず、ないだろうけど。

100%ありえなくはないんじゃないかって、心のどこかで思ってる。

思ってはいるけど。めったにない話、だよな。

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