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  • PEPE(♀)             王子様ラブ街道爆走中の、清く正しい乙女です。 自由気ままに生きている「かいJゃいん」(w)です。 妄想と甘いものとカワイイもの、大好きなお洋服、素敵な音楽、王子様との淡い想い出、それから大切な人たちに囲まれて、HAPPY全開、LOVE&PEACEです。 こんなぺぺですが、末永くおつきあいくださいませ☆
  • 主な登場人物

    ☆ぺぺ☆ 妄想星の妄想姫。 万年ダイエッター。 王子様に圧倒的片想い中。 精神状態は中学生レベル。 肉体的には…え~っと…めざせキューティハニー!

    ☆王子様☆ とあるお笑いコンビのツッコミさん。 ヒントは文章の端々に。 本文中のどこかには名前が隠れてます(笑) 昔はホントにかっこよかったです。今は…ぺぺ的には最強王子様です! もうね、全肯定します!!

    ☆相方サマ☆ とあるお笑いコンビ(王子様とのコンビ)のボケさん。 ぺぺとは趣味が合うようです。 そのせいでしょうか、ぺぺの夢にでてくるときには、必ず仲良しの設定になってます。 現実的にも、きっと話が合うと思います。三国志の武将、詳しいですから、ぺぺ。


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2006年10月31日 (火)

vol.1 "PROLOGUE"1

PROLOGUE

昼休み、彼とぶつかったことが全ての始まりだった。

あたしは、「不良」の桃瀬一美。誰よりも赤い髪。成績はよかったけど、授業は馬鹿らしかった。何がって、聞く価値もないものに時間をかけるのが、本当に馬鹿らしかった。だから、教室には行かなかった。友達もいなかった。トイレにつるんでいく必要なんて、なかったから。そんなのは、子供のやることで、馬鹿らしかった。何もかもが、馬鹿らしいと思った。

この年じゃ、普通じゃないことは、疎外されることを意味していた。噂が一人歩きして、誰からも恐れられ、口を聞いてもらえず、廊下を歩けば自然に道が空く。

あたしは、そんな生活をしていた。

構わないと思った。

どうせ、こんな馬鹿らしいことは、やがて終わる。だから今、無理をして誰かに合わせる必要はない。たまに寂しいことはあっても、そんなのは人生の中のほんの一部なんだから。たいしたことない。全然、平気。

ずっと、そんなふうだったあたし。

もしもあの日、彼に逢わなければ、きっとずっとそのままだっただろう。



昼休み、センセイに呼び出しくらった。

その髪はなんだ。どうしてさぼるんだ。成績がいいからって、全部が許されると思うなよ。

あたしは、型通りの説教を聞き流していた。ハイハイ。別なことを考えていれば、くだらない時間はあっという間に過ぎ去る。たまに学校にいれば、こんなのばっかりだ。

頭にくるも何もなく、ぼんやりとやり過ごし、礼もしないでショクインシツから出た。

何?

弾丸のように走ってきたチビがぶつかってきて、あたしは廊下の壁に飛ばされた。

「……ってぇ」

チビは転んだ膝をさすりながら、あたしを見た。

あたしは、唇を噛んでそいつをにらみつけた。どこ見て走ってやがるんだ、このガキ。幼い顔立ち。

「あ、わりい。どこかぶつけた……よな。どこ? 腕? 見せて。大丈夫か。腫れたりしてない?」

え? 何、この態度。もしかして、あたしのこと、知らない?

怪訝な顔のあたしを不審そうに見て、首を傾げる。真っ直ぐな目。クラスのやつらが見せる顔とは、全然違う。

「ごめんな。まさか、いきなり出てくるって思ってなかったから」

あたしのこと、怖がったり、珍しがったり、しないの?

こんなに目立つ格好をしてるのに?

みんな遠巻きに囁きあっているのに、気にならないの?

チビは、申し訳なさそうにあたしの手をひっぱって、立たせてくれる。そして、あたしの腕にそっと触れる。それは、まるで、壊れ物を扱うように。

「痛い?」

違う。

痛いのは、そこじゃあない。

痛いのは、心だ。あたしは泣き出したい気持ちを、いっぱいに抱えている。

もう誰も、こんなふうに接してはくれなかった。教室でだって、家でだって、どこでだって。みんな、あたしを遠巻きにして、ひそひそと喋っているだけ。あたし、本当は少し、寂しかった。

「ごめん。泣かないで」

そんな優しい言葉をかけられたら、尚更泣きたくなる。あなた、一体、何者なの?

「おい、何やってるんだよ」

後ろから声がして、ふっと我にかえる。

この人は知ってる。職員室でよく逢う。磯島尚人。バンドやってるって話だった。生まれつきの茶髪で天然パーマらしいんだけど、全然言い訳しないから、よく呼び出しくってる。

「あれ、ノリ。桃瀬と友達だったの?」

「いや、今、ここでぶつかって。桃瀬っていうの? 大丈夫?」

心配げな言葉。あどけなく見つめる瞳。

心配しないで、大丈夫だから。

言葉にならなかったけど、頷くと、ぱっと顔をほころばせた。なんて、笑顔。

あたたかい笑顔…って、こんな感じだろうな。全部溶け出してしまうような、やさしい笑顔。

あたし、思った。

このひとのためなら、なんでもしてあげたい。

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vol.1 "PROLOGUE"2

次の日、あたしは学校をさぼった。

髪の毛を黒く戻して、ピアスをとって、尖らせた爪を切って、鞄に教科書を詰め込んだ。ごく普通の、中学生に戻った。

あたしは、普通の中学生になりたかった。

ノリ、と呼ばれていたあの少年に、嫌がられたくなかったから。



次の日は、ちょっとした騒ぎになった。

そのざわめきの中で、あたしはすました顔で教科書を開く。だって、あたしはごく普通の中学生なんだもの、とても当たり前なことをしているだけ。今までのことを思い出すと、ちょっと変な気分だけどね。

それに、周りに何を言われたって、全然関係ない。ずっと、いろんなことを言われ続けてきたんだもの、今更気にならない。あたしは、あたしの思うように振る舞うだけ。

先生までが驚いた顔で見つめる中、久しぶりにホームルームに出ている自分がほんの少しだけおかしくって、少し笑った。



ホームルームの後、「ノリ」、彼が来た。

磯島尚人と一緒に、おずおずと教室を覗き込む。彼は首を振って磯島を見上げ、磯島はあたしに気がつき、驚いて指をさす。彼はその方向を見て、初めてあたしに気がついて、人懐っこい笑顔を浮かべた。そして、よく懐いた犬のように、駆け寄ってきた。

「大丈夫だった? 昨日休んでたろ? 病院とか行ってたの?」

昨日も来たんだ。心配、してくれてたんだ。

あたたかいものが、ゆっくりと体を流れていく。

「ホントにごめん」

「……ううん、大丈夫。気にしないで」

彼は嬉しそうに頷く。それから、不思議そうな顔であたしを見つめた。少し首を傾げて、そのあとぱっと顔を輝かせる。

「あ、そっか。髪の毛の色が変わったんだ。今の方が、いいよ」

面と向かって言われたから、ドキドキしてしまう。ほかの誰でもない、あなたにそう思ってほしかった。今の方がいいって。だから。

ありがとう、って気持ちで彼に微笑む。彼は少し頬を赤らめて、目をくるくると丸くさせる。それから、少し上を向いて、言葉を探してる。そうやって、言葉を選ぶんだ。ひとつひとつ新しい発見をして、嬉しくなる。彼のこと、何にも知らないんだもの。

「おまえ、今、笑った顔、すごいかわいかった」

え?

彼はくすくす笑って、付け足す。

「いや、あの後、クラスのやつに、桃瀬が怖いとか言われたから。でも、普通だよな。へんなこと言って、ごめん」

すごいかわいかった、なんて。ドキドキする。そんなこと、今まで言われたことなかった。びっくりしてるし、嬉しいけど、恥ずかしい。

彼は、クラスに戻る前に、照れたような笑顔で言った。

「俺、奥原徳大」

おくはら・のりひろ。

心の中で繰り返す。

ドキドキは収まりそうにない。かわいいとか言われたせいだけじゃあない。きっと、こういうのって。きっと、きっと。

あたしは、その名前を心の中で何度も何度も繰り返した。次の授業が始まっても、聴いたばかりの名前を、何度も何度も繰り返していた。

何度も、何度も、何度も、何度も。




vol.1“PROLOGUE” FIN

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2006年10月30日 (月)

vol.3 "ONE MORE KISS"1

ONE MORE KISS

はちみつ色した月あかりが、小さな窓から差し込む。

あたしは、その仄かなあかりを体じゅうに感じ、少し感傷的になる。泣きたいような気持ちで、もう何十回となく聴いたライブ音源のCDを、またかける。そのCDは、ハスキーでせつない声がバラードで愛を語りかけ、あたしの小さな体を満たして、尚更泣きたくなる。

どうして、あたしは泣きたいのだろう。

あなたの声を、こんなに近くに感じるのに。

彼の声は、高音で甘くせつなく途切れる。

月の光が、あたしの頬をゆっくりとつたう。あたしは、親指でそれをぬぐいながら、強く想う。

―――好きです、磯島尚人くん。

。。。。。

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vol.3 "ONE MORE KISS"2

尚クンに初めて逢ったのは、小学校6年生の冬だった。

お兄ちゃんの後輩だという彼は、中学1年生のその頃からひょろりと背が高く、赤い髪の毛をしていて、普通の中学生には見えなかった。

「せんぱいの妹?」

それが、尚クンの声を聞いた、いちばんはじめだった。

少しかすれたような声。低音。涼やかな切れ長の目で真っ直ぐに見つめられて、あたしはすぐに言葉を見つけることができなかった。

「なまえ、なんていうの?」

尚クンは、かがんであたしの目の高さをそろえる。

あたしは、すっぱいレモンを間違って噛んだような、きゅんとした頬のくぼみを感じた。もちろん、本当にくぼんだわけではなくて、すっぱいものはおなかの中いっぱいにひろがって、きゅんと鳴く。

「あいざわ、あやね」

「ふぅーん、あやねちゃん、か。俺はね、磯島尚人。中学1年。あやねちゃんは?」

「6年生」

ひとことひとことに頷く彼を見ているうちに、何だかぎゅっと締め付けられたように、苦しくなってきた。あたしはまだほんの小さな子供で、その気持ちがなんなのか全然判らず、ただ震えて尚クンを見ていた。尚クンは白い歯を見せて笑っていたのが、不意に驚いた顔になる。

「どうしたの?」

あたしも、吃驚した。あたし、泣いていた。

泣いていることに驚きすぎてぐすぐすしゃくりあげだしたあたしの頭を、尚クンはおそるおそるなでる。その手の大きさを肌で感じて、あたしの涙はますます止まらない。

それが尚クンとの出逢いだった。

。。。。。

「あんときは吃驚したよなぁ。あーや、泣き止まないんだもん」

未だに、尚クンはあの日のことを話すことがある。あたしの顔を見るたびに、思い出すのだろうか。

尚クンの背は、この2年でますます伸びた。あまり背の伸びていないあたしが彼の顔を見るためには、うんと見上げなくちゃならない。首が疲れるくらい見上げて、やっと視線を捕らえている。捕らえた尚クンの目が、こどものように笑っている。

「だって、吃驚したんだもん」

あたしは、いつもと同じ答えを言う。そうしたら尚クンもいつもと同じく、くくく、と噛み殺した笑い声をたてる。

「かーわいかったよなぁー」

そして、あのときのようにあたしの頭をくしゅくしゅっとなでる。だからあたしは、髪の毛を伸ばせない。ずっと短いおかっぱ頭のままだ。

今日は、学校帰りに偶然バッタリ逢った。尚クンは来年、高校受験だし、いろいろ忙しいし、めったに逢うことはない。学校内だって、学年が違うから、まず顔を合わせることなんかない。だから、こういう偶然が、本当に嬉しい。大切な時間。

本当言えば、尚クンは、あたしのお姉ちゃんのお店でバイトしているから、逢おうと思えばいつだって逢えるはず。だけどお姉ちゃん、絢音はまだこどもだから来ちゃダメって言うんだもん。

「尚クン、受験勉強してる?」

「いや、ぜーん然。でも大丈夫だよ」

尚クンは、呑気に空を見上げる。

あたしは2年間、ずっとこのひとだけを見つめてきた。でも、何にも気づかないのね。

尚クンは、この辺では人気のバンドのヴォーカル。女の子にきゃあきゃあ言われるのには慣れている。騒がれすぎて、視線に鈍感になっている。女の子なんてどうでもいいって思っているみたい。群がる女の子たちを邪険に扱って、煙たがっている。

―――めんどくせぇな、女って。

尚クンがそうつぶやくたび、あたしは少しドキドキした。こんなこと、あたしに言うなんて? だけど、あたしもその中のひとり?

少しうつむくと、尚クンはちらっとあたしを見て、笑う。

「あーやは特別だよ。だって、おまえ、女じゃないもん」

あたしは、ふくれる。そしたら、尚クンはいつものようにあたしの頭をくしゅっとなでる。

「嘘。ふくれるなよ。俺の大事な妹だもん、特別だよ」

……そう。

尚クンにとって、あたしは、妹。特別って言ってくれるし、大事にしてくれているけど、妹。それ以上でもそれ以下でもない。生意気なことを言っても嫌われることはない。むしろ、わがままな妹だって、かわいがってくれる。でも、あたしが欲しいのは……。

妹なだけマシじゃない。ともだちは、言った。磯島さんに、顔も名前も覚えられてないあたしより、いいじゃない。あーやのこと、羨ましい。あたしも、あんなふうに磯島さんとお話ししてみたい。

でも、と思う。みんなには、可能性がある。いつか、偶然出逢って、尚クンの目に留まって、そして恋人になっていく、可能性。あたしは、ただの妹。確かに、優しくされている。誰より親しく見えているかもしれない。でも、いつまでたっても、妹は妹。恋人にはなれない。

あたしは尚クンの妹でいたいわけじゃない。例えば今、尚クンと手をつなごうと思えば、きっと簡単にできる。でも、尚クンは絶対にはにかんでみせたりしない。頬を赤く染めることもないし、まして情熱的に握り返すことなんてありえない。甘えん坊の妹だなって、少し困ったような誇らしいような笑顔でいるだけだろう。

「どうかした?」

急に尚クンが顔を覗き込んできたから、我にかえる。

「う、ううん」

慌てて首を振るあたしの頬は、鈍感な尚クンが見ても赤かったらしい。怪訝な顔で、あたしの頬に触れる。どうしよう、あたしはますます赤くなる。

きゃっ。

吃驚して、目を見開いてしまって、慌てて閉じる。だって、尚クンったら。あたしのおでこに自分のおでこ、くっつけるんだもん。心臓、爆発しそう。涙浮かんできちゃう。尚クン……。もし、急に抱きついたらどうする? 好き、そうつぶやいたら? 

尚クンに、心臓の音、聞かれちゃいそう。体じゅう、燃えちゃいそう。

「熱はなさそうだけど。なんか、震えてる? 大丈夫か?」

ばかみたいに、鈍感な人。本気で、心配している。

「うん、大丈夫」

「そう? じゃ、さ、家まで送ってく」

本当? そう思った瞬間。ひょいっと背中におぶられた。

ちょっと、尚クン。じたばたしたら、暴れたら危ないぞって笑ってた。あたしの足を押さえる手が温かくて、泣きたくなる。だから、尚クンの肩におでこをつけて、顔を隠す。

ねぇ、知らないでしょ? あたしがこんなに、あなたのこと好きだ、なんて。でもね、尚クンは気づかなくっていい。そのままの尚クンでいて。鈍感で無邪気で呑気な、今のままの尚クン。あたしは、この背中の広さ、男のひとの匂い、全部覚えておく。

「軽いもんだな、女の子って。あーや、背、どれくらい?」

「150センチちょっと」

「へぇ。なな子と同じくらい、かぁ」

……今の……って?

少し照れを含んだ、甘い声。

初めて聞くなまえ。尚クン、女の子の名前、呼び捨てにしていたことなんか、今まで1回もなかった。尚クンの仲良くしてるひとの名前は、全部知っているはず。呼び方も、全部。それに、こんな声で誰かの名前呼んでいるのなんか、聞いたことないよ。ねぇ、そのひとって。なな、子、さん、って。

「尚クンの、……かの、女?」

何気なさを装って、声を震えないようにするのが精一杯だった。尚クンは照れ隠しに、あたしのことをおぶりなおす。

「ううん。でも、だったらいいな。俺、女の子好きになったの、初めてだから。どうしたらいいのかわかんないや。おまえは? 好きなやついる? まだか、こどもだもんな」

どうして? どうして、今、そんなこと訊くの? どうして、初めて女の子を好きになる前に訊いてくれなかったの? 今のあたしに、何を答えろって言うの?

叫びたい気持ちを必死でこらえる。唇を噛み締める。

「好きなひとくらい、いるもん」

あたしの答えに、呑気に尚クンは驚く。

「えー、どんなやつ? どうして俺に教えてくれなかったんだよ。ま、いいか。どんなやつだよ。俺よりカッコイイ?」

無邪気な尚クン。完璧にお兄さんのつもりなんだね。これっぽっちも「自分かも」なんて思っていない。もし、あたしが好きなひとを教えたら、このひといったい、どうするんだろう? 冗談だと思って笑い出すんだろうか。それとも、うろたえるんだろうか。見てみたい気もする。だけど。

言えないよ、やっぱり。

「当たり前じゃない」

強がりなあたしの口は、言葉を紡ぎだす。

「絢音が好きになる男の子だもん、尚クンよりずっとずっと優しくてカッコイイに決まってるよ」

「いるかぁ、そんなやつ」

尚クンは嬉しそうに、背中の上のあたしを揺らす。尚クンの恋は、尚クンを陽気にしている。あたしの恋は、ただこうやって腐っていくだけなのに。あたしは無邪気な妹を装って、尚クンの首にぎゅっとしがみつく。もう、離したくない。ねぇ、尚クン。こんなに、こんなに、好きなのに。

尚クンは、無邪気に甘える妹に気をよくして、明るい笑い声をたてる。仕方ないなぁあーやは。照れ隠しなんか、言う。あたしが心の奥底で、あなたが好きだと慟哭しているなんて、小指の先ほども思っていない。こんなにぴったりくっついていても、なんだかすごく遠い。それでも、あたし、尚クンが好き。

「到着」

ハスキーな声が、この時間の終わりを告げる。いやだ、側にいてよ。駄々っ子のようにおねだりすることもできたはずだ。でも、できない。尚クンを困らせたり、できない。あたしは、素直に彼の背中から下りる。尚クンはあたしに、お兄ちゃんの笑顔を見せる。

「今度、聞かせてよ。おまえの好きなやつの話」

頷いて、さよならをして、ドアの中に入った瞬間。

あたしはもう、無邪気な妹じゃなかった。

。。。。。

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vol.3 "ONE MORE KISS"3

なな子さんには、それからしばらくして、逢ってしまった。

背が小さくって、やわらかい印象のかわいらしいひと。あたしを見て、にっこりと笑いかける。

「絢音ちゃん? 磯島くんがいつも言ってたよ、かわいい妹だって」

平気で傷つくようなことを言う。彼女は当然、気づいていないけど。気づかれちゃいけない。あたしは、引きつった顔を冷静に見せるのが、やっとだった。

なな子さんは何も知らないから、人のよさそうな顔でにこにことしている。ふわふわした長い髪の毛が日差しに透けて、とても綺麗に見える。尚クンも、きっとこんなふうにこのひとを見ているのだろう、そう思うと、胸が焦げそうだった。

あたし、今、きっと、すごく嫌な顔をしている。今まで生きてきた中で、いちばん醜い顔。彼女の綺麗な笑顔とは対照的な。

「あたしね、尚クンのこと、2年前から知ってます」

彼女は怪訝な顔になる。急に何言ってるの? きっとそんなところだろう。あたしの口は、止まらない。

「尚クン、あたしのお姉ちゃんのお店で、バイトしてます」

「うん」

「お兄ちゃんのバンドでやってたから、今も時々遊びに来るんです、うちに」

なな子さんは、いよいよ怪訝な顔をする。唐突に、訳のわからないことばかりを話しすぎている。彼女には、あたしの真意がわからない。小首を傾げている。

「どうしたの? 絢音ちゃん」

……あんたなんかより、あたしの方がずっと彼のことを知っている。横から入ったくせに、ずるいじゃない、盗らないでよ!

でも、言えなかった。

あたしは、急にへらへらと笑って、尚クンのこと紹介しちゃいましたぁなんておちゃらけてみせて、それが精一杯の強がりだった。なな子さんは、あたしの笑顔にほっとしている。そして、教室での尚クンの話なんかをしてくれる。あたしの知らない尚クン。聞きたいような、聞きたくないような。だけど、彼女の口からは、聞きたくない。どれだけ残酷なことをしているか、彼女は気づかない。あたしは、心の中で何度も叫ぶ。

―――あんたなんか、大っ嫌い。

こんなにかわいらしいひとでも。

尚クン盗るなんて、許せない。尚クンのココロ、盗んじゃうなんて。

あたしは、もう2度と、尚クンの前で妹の顔なんてできない、と思う。

。。。。。

あたしの中には、どろどろとしたものが流れ始めた。学校では、ともだちとにこにこわらってお喋りをする。でも、それ、は急に湧き上がってきて、あたしは吐き気をもよおしてしまう。

苦しいの。

あたし、もう、尚クンに逢えない……。



だけど、こういうときに限って、尚クンに逢ってしまう。尚クンは、にこにこと近づいてくる。あたしの心は、お願い来ないでと叫ぶ。でも、どこかで喜んでいる、尚クンに逢えて。

尚クンはおどけたように、俺よりカッコイイ彼氏、元気かぁ、なんて訊いてくる。元気だよ、だって目の前にいるもの。もし、そんなこと言ったら、どんなことになるだろう。鈍感だから、まわりをきょろきょろ探すんだろうか。馬鹿な尚クン。どうして気づかないんだろう。あたしが、こんなにも想っているのに。こんなに好きなのに。

あくまでも鈍感で、自分の恋に夢中な尚クンは、あのひとの話をしたそうにあたしを覗き込む。冗談じゃない。でも、聞いている顔をする。心の中では、耳をふさいでいる。もういい、聞きたくない。でも、尚クンの嬉しい顔を見つめている。きっと、あたしには心を許してくれている。だから、こんな顔をするんだ。他の人といるときに、こんな顔はしない。それとも、恋がそうさせているの?

あたしの恋は、じくじくと醜くなっていく。尚クンが幸せな顔をすればするほど、速度を増して腐っていく。あたしって、心が狭いのかな? 尚クンは、こんなにも幸せそうなのに。彼の幸せを自分の幸せに思ってあげられない、なんて。

今までは違ったね。尚クンが嬉しいときは、絢音も嬉しかった。尚クンが笑っているときは、絢音も笑っていた。今も、顔だけは笑っているかもしれない。でもね、心が泣いているよ。あなたが好き、ひとりじめしたいのって、叫んでいるよ。

そんなあたしに、あなたは、なな子がさぁ、なんて呑気に話し続ける。

あたし、心の中で、あのひとを殺したよ。日差しに透けた長い髪や、鼻の上に愛らしく散ったそばかすまで憎んだんだもの。

あたしの心の中を見ることができたら、尚クン、あたしをどうするかしら。殴る? なじる? それとも、もう、口もきいてくれない?

あたしがぼんやりしてるから、尚クンはあたしを心配する。やめて、お願いよ。あたしのなかのあたしが叫んでいる。なのに、顔はお面をかぶったかのように笑いを貼り付けて、ううん何にもって言うの。違う、言いたいことばは、そんなのなんかじゃない。あたしはあなたの妹なんかじゃない。笑ってなんかいない。あなたの幸せを望んでなんかいない。あたしの気持ちは。



好きなの。

あたし、あなたが。

好きなんです。

心から。

こんなにも。



お願い、気づかせて欲しくなかった。

もうすこし、無邪気な妹でいる時間が、欲しかった。

。。。。。

尚クンの歌っているCDはかけなくなった。

あんなに尚クンにおねだりして、やっともらった宝物だったのに。

あたしの大好きな、せつないラブソング。あれは、絢音のためじゃない、あのひとのことを想っている。その声が高音で甘くせつなく溶けるとき、尚クンの目は、きっとあのひとを映している。

苦しい。

尚クンの声を聴くと、張り裂けそうなの。あの声で、あの瞳で、あのひとに愛を打ち明けるシーンが、目に浮かぶ。あのひとはきっと、彼を受け入れる。あのやわらかな笑顔で、細い手足で。あたしはここで、くちびるを噛み締めるだけ。泣いても叫んでも尚クンの目はあのひとしか映さない。

それとも、もっと残酷なことがおきるかもしれない。あたしに、祝ってほしいと、言う。兄貴の恋が実ったんだぜ、なんか言えよ、なんて。あたしはへらへらと顔の皮1枚で笑って、おめでとうなんて言うの。

ああ。

あたしは、あたし自身の小説の中ですらヒロインになれない。なんて可哀想なピエロ役。はじめて好きになったひとの妹にしか、なり得ない。血を吐くような気持ちでも、祝福のことばを投げるしかない。

いったい、どうしてこんなことになっちゃったの?

いったいいつから?

あたしが主役なら、ハッピーエンドのはずなのに。

あたしの恋は、はじめから、始まらない。ドラマが始まらない。

尚クン。

忘れられたらいいのに。忘れたい。

……忘れない。

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vol.3 "ONE MORE KISS"4

久しぶりに彼に逢ったのは、受験も終わったあとだった。

少し、痩せたみたい。頬の窪みが、尚更、彼を大人に見せている。あたしのことを見つけると、少し伏し目がちに近寄ってきた。なんだか、元気がない?

「よ、あーや。久しぶり。元気か」

いつもの尚クンは、こんなふうじゃない。もっと弾むように、ビートにのっている感じで。涼しげな眼差しで真っ直ぐあたしを見つめて、あたしをどぎまぎさせるのに。

あたしは、伏せた尚クンの目を覗き込む。尚クンは何気なさを装って、あたしから目をそらす。あたしは、彼の視線を捕らえたくて、一生懸命になる。だってこんなの、尚クンじゃないもの。

「どうしたの? もしかして、テスト、悪かったの?」

尚クンは苦笑する。いつものカラカラした笑いじゃない。湿った、そういう表現がしっくりくるような、そんな笑い。あたしは、知らない尚クンを見ているようで、なんだか怖くって、彼の手を握る。

あ。

初めて握った尚クンの手は、温かくて、優しかった。あたしは、泣きたくなった。

尚クンは、やっと絢音を見てくれる。

その尚クンの目が泣いていて、あたしは吃驚する。ううん、本当はまだ泣いていない。こらえているのだけど。あたしには判る。尚クンは瞳の向こう側で泣いている。背中をトンって押したら、絶対に零れ落ちる。ああ、そんなふうに彼を泣かせる原因は、ひとつしかない。

「なな子、さん、……どうかしたの?」

彼の手が、ぎゅっとあたしの手を強く包み込む。

苦いお薬を飲んだときの、男のひとの顔。眉間に刻まれた皺。噛み締めたくちびる。ああ、間違いない。尚クンにこんな顔をさせられるのは、あのひとしかいない。だとすれば、尚クンの恋は、いったいどうなっちゃったの? 嬉しいのか悲しいのかなんなのか得体の知れない感情があたしの体を駆け上がってきて、あたしは少し混乱する。何より、話してほしい。いったい、どうしたの?

「なな子、つきあってたんだ、みんなに隠して……」

え? 尚クンが何を言っているのか、すぐには理解できなかった。だって、尚クンじゃなくて?

違う人と。つきあって、いたの?

どうして? 尚クンはこんなに優しくて、こんなに温かくて、こんなに素敵で、なにもかもがいいひとなのに。尚クン以上の人なんかいるわけないのに。どうして、別の人なんか。

「俺、どうしていいか、判んないよ。好き、なのに。なな子が幸せならそれでいいって、思ってやりたいのに。俺」

微かに震えている、尚クン。

泣きたいなら、泣けばいいのに。

あのね、絢音は、あなたよりずっと前に、今のあなたと同じことを思っていたよ。今まで、ううん今も、ずっと抱えている想いなの。だから、少しだけ楽になる方法を、知っている。泣いた方が、いい。しゃがみこんで泣いてしまえば、今よりずっと楽になれる。でも、泣けないのね。可哀想な尚クン。尚クン……。

一瞬、自分で、自分が何をしたのか、判らなかった。

あたしは。

精一杯背伸びして、手を伸ばして、彼の頬を両手で包み込んで、自分に引き寄せて、そして描いた。

彼のくちびるに、あたしのくちびるで、一文字。



はじめてのくちづけだった。

あたしはただ、彼を守ってあげたかった。大丈夫、あたしがいるからって、そう伝えたかった。それだけなのに。

……どうしよう。

尚クンは、驚いた顔であたしを見つめる。今は、あのひとのつけた傷さえ忘れてしまったかのように、あたしを見ている。

どうしよう。あたし、あたし。

いたたまれないって、こんな気持ち? ああ、どうしよう。尚クンのこと、見られない。顔を隠して、しゃがみこんでしまう。どうしよう。膝を抱えてしまう。やだ、もう、どうしよう。

「あーや」

彼の声が、あたしを優しく呼ぶ。大好きな甘いハスキーボイスで。

尚クンの気配を感じる。すぐ近くに。今までより、ずっとずっと近くに。そして、温かいものに包まれる。尚クンの息が耳元にかかる。

「ありがと」

ううん、ううん。首を振る。

あなたは、あたしに、いろいろなものをくれた。あたしは、何か返したかった。それだけだもの。

尚クンは、首を振り続けるあたしの髪の毛を、そっとなでてくれる。前よりも、少し伸びた髪の毛を。尚クンの大きな手で、あたしの頭はすっぽり包まれてしまう。これが、あたしの焦げるように望んだ瞬間。ずっとあなたが好きだった。妹なんか、嫌だった。ひとりの女の子として見てほしかった。お願い、ずっと、こうしていて。もうずっと、離れたくないよ。

尚クン。あたしは彼の名を呼び続ける。壊れちゃいそうで、怖いの。夢かもしれない。だったら、お願い、さめないで。

「ごめん、俺、頼りない兄貴だよな。妹にまで心配されて」

……妹。

現実に戻る。あたしは、尚クンの手から、自然に離れていく。尚クンは、照れた瞳であたしを見下ろす。そう、あたしは、妹。それが尚クンの答え……。

あたしは立ち上がって、まだしゃがんだままの尚クンを見下ろした。

「元気、でたか? ホント、こんな情けない兄ちゃんなんか、持ちたくないよ」

どうして自分が笑えているのか、不思議だった。本当に悲しいとき、人は笑っちゃうのかもしれない。あたしは、とびきりの笑顔を尚クンに向ける。

「絢音の……妹の、いっちばん最初のキス、だったんだぞ。尚クン、運がいいよ。絶対、次はいいひと見つかるよ、なな子さん、よりさ」

「俺だって最初のキスだったんだぞ、おまえもいいやつ見つかるよ」

尚クンは、腰の辺りをパンパン払いながら立ち上がって、笑顔を見せる。ふたりでくすくす笑いを重ねる。

涙なんか、出てこないよ。絢音の、はじめての失恋。今、思うのは。尚クンを好きになってよかったって、それだけ。

背筋をピンと伸ばして見上げるあたしの頭を、尚クンはぐしゃぐしゃとなでた。いつものように。そう、いつものようにしていて。尚クンの目。尚クンのくちびる。忘れない。忘れない。

あ。

尚クンの中に、急に引き込まれる。苦しいくらいの抱擁。

「ごめん、俺」

謝ることなんか、ひとつもないのに。だけどそうやってされていると、涙が。

あたしは、声を上げて泣く。

泣きたくなんか、なかったのに。ずるいよ、こんなのひどいよ、尚クン、こんなふうに謝るなんて、泣かせるなんて。どうして、どうしてなの? 尚クン。謝ってなんか、ほしくない。そんなのってずるい。

わあわあ声を上げて泣いていると、自分が軽くなっていくような気がする。尚クンに全部任せて泣いているのが、とても気持ちいい。ずるいよってつぶやきながら、あたしは彼の匂いに包まれて穏やかな気持ちになっていく。尚クンも泣いているのかな? 妹の前じゃあ泣けないかな? 顔が見えないから、判らないや。でも、泣いていいよ。一緒に泣けば、きっと楽になる。

こうやって、全部吐き出しちゃえば、明日からはきちんと妹になれるかな。最初は少しつらいかもしれないけど、ゆっくりと、時間をかけて。いつだって、近くにいるから。あなたと、あたしは。恋ではないけれど。

「ねえ、尚クン。あたし、あしたからちゃんといい妹になるね」

尚クンをそっと見上げる。

尚クンの目は微笑んでいて、優しく頷いている。俺もちゃんといいお兄ちゃんになるよって。だから。

今だけは、わがまま言って甘えてもいい?

わがままっていっても、たいしたことじゃあないの。きいてくれる?

――― ONE MORE KISS TO ME ―――




vol.3 "ONE MORE KISS" FIN

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