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    ☆ぺぺ☆ 妄想星の妄想姫。 万年ダイエッター。 王子様に圧倒的片想い中。 精神状態は中学生レベル。 肉体的には…え~っと…めざせキューティハニー!

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おはなし☆NO WOMAN NO CRY

2006年11月 3日 (金)

はじめに。

え~っと。登場人物が多すぎますので、少しばかりいいわけなど。

このおはなしは、長い長いおはなしの一部であります。

ほかのおはなしにも興味のある方はこちらへ。

ちょっと簡単に、本編の説明します。

中学時代。「なな子(天城なな子)」と「ノリ(奥原徳大)」のおはなしです。なな子は「桃瀬(桃瀬一美)」と、仲良くなります。ノリは尚人と幼馴染です。

典型的なラブストーリーですね~。ともだちの好きなひとを好きになったらどうする、的な。

で、高校生になって。

ここで、ノリくんは「星野さん」という女の子と知り合い、やがて心惹かれるようになります。

あと、男の子はバンドやってまして、尚人とノリのほかに、タク(卓士)と暁、それから裕哉さんという名前が出てきます。

高校のときは軽音楽部に彼ら、所属していまして、後輩に豊田愛穂ちゃんという女の子がいます。

う~ん、これで登場人物の説明(?)はおわったかなぁ?

まぁ、そんな基礎知識がなくても読めなくはないと思いますが、まぁ、一応。なんでこんなにちょい役に名前があるんだ? って感じだろうなぁ、と思ったので。削ろうかとも思ったのですが、彼らの成長にみんなちょっとずつ必要だったものですから。ぺぺの頭の中では、あくまでも、たくさんあるおはなしの中の一部分、なのです。

作者としての力量のなさを棚に上げてのいいわけでした。

NO WOMAN NO CRY 1

NO WOMAN NO CRY

いつものライブ。いつもの歓声。男、女。

俺はあがり症だから、客席はあまり見ない。どうせ、ライトが眩しくて、あまり見えはしないけど。

でも、不安で時々見てしまう。

そんなとき、偶然ライトが弱くなって見えたんだ。顔を背けて、ドアの向こうに消えていった、女。

NO WOMAN NO CRY 2

。。。。。

帰り道。今日は、打ち上げもなく、何となく解散になった。尚人が、何か食って帰ろうぜ、と俺を誘う。俺たちは相変わらず、近所に住んでいる。

ススキノの街は、どうしてかいつも明るい。そして、人が笑いさざめいている。俺たちみたいな、いかにもロッカーって格好をしていても誰にも指をさされない、不思議な街。

「金曜日、か」

尚人が呟く。ああ、街はカップルだらけだ。

突然、尚人が足を止める。

「どうした?」

尚人は、目を細めて前を見つめていたかと思うと、急に駆け出した。一体、何なんだ? 呆然と眺めていると、人混みの向こうに、背の高い尚人の頭がひょっこり見えた。

一瞬、人波が途切れて、鮮明に映し出された。尚人、が、女の子の腕を摑んで。あれは。ライブの途中で出て行った女? 長い髪、白いスカート。きっと、そう。

尚人が何か話している。ひとこと、ふたこと。そこだけ時間が切り取られたかのように、動かない。彼女が、尚人の手を振り切るように駆け出して、尚人はそれをただ見つめていて、それからやっと時がごうごうと音を立てて流れ出す。ようやく、動き出せる。

立ちすくんだままの尚人に近寄って、肩を叩く。

「あ、ノリ。悪い、俺、帰る」

「メシは?」

「いや。悪いな」

夢を見ているかのような、尚人の顔。バカヤロー、一目惚れかよ。逃げられたくせに。

何となくムカついて、ひとり、ファーストフード店でハンバーガーに齧りつく。

バカヤロー、バカヤロー。

ん、俺、一体何にムカついているのだろう。別にどうってことないのにな。でも、面白くない。腹の底で、何かが蠢いている。そうか、尚人が約束を守らないからだ。なんて。

ガキでもあるまいしな。


家に着いたら、手紙が届いていた。

豊田愛穂。高校時代の後輩だ。

今どき手紙なんて珍しいけど、メールだけじゃなくて、あいつはこうやってたまに思い出したように手紙を書いてくる。

いかにも女の子っぽいキャラクターの書かれたピンク色の封筒に、小さな丸い文字が並んでいる。

愛穂ももうすぐ20歳なのに、相変わらずこどもっぽいなぁ。だけど、なんとなく嬉しく思う。

さっきまでのムカつきを忘れて、小さく鼻歌なんかを歌いながら、封を切って読み始める。そして、目を見開いた。

『今日、小樽に行ったとき、なな子さんを見かけました』

なな子。高校を卒業したあと、姿を消してしまった。あれから、4年。

少しずつ少しずつ、過去になってきているとはいえ、やはり俺の中では鮮明に残っている。痛みも、せつなさも。

尚人は、はじめて好きになった女の子。なのに俺は、なな子に惹かれてしまった。急速に、止められないくらい。なな子も、同じ気持ちを感じてくれていた。運命だと思った。好きで好きで、でも尚人には言えなくて、秘密で気持ちを重ねていた。罪悪感に苛まされながらも、お互いにただ愛しくて、大切に思っていたけど、当然長続きなんかするわけなくて…すべては、言い訳になるけど。

そんな状態で、ぐちゃぐちゃな高校時代の後、姿を消した、なな子。

小樽にいたなんて。

ため息をつきながら、俺の指は愛穂の電話番号を探していた。

10コール。出ない。

尚人に教えてやろうか。

「現在、電波の届かないところにあるか…」

ちぇっ。

特に金曜日の夜だから、俺はつまらないのかもしれない。

女の子でも、いればいいのに。愛穂のヤツ、一体何してるんだろう。

尚人も、硬派ぶってるくせにオンナ追っかけてフラフラしてんじゃねぇぞ、ったく。

NO WOMAN NO CRY 3

次の日。目が覚めたら、尚人が俺の部屋で雑誌を広げていた。

「……ンだよ、なおと」

寝起きのせいで、うまく声が出ない。でも、まあ、よくあることだ。昔から、俺たちは勝手に部屋に出入りしている。

今もそんなふうにしているってことは、それはつまり、お互い、今、彼女がいないってことだ。もしいれば、彼女と仲良くしてるときに入ったり、そんなことになったらお互い気まずいから、できないだろう。

「あのさ」

Tシャツを着て、ぐちゃぐちゃの髪の毛に指を通していると、不意に尚人が話しかけてきた。

「昨日の女さ」

「ああ、あの。何だったんだよ、あれ」

忘れていたのに、苦いものを急に思い出す。舌打ちしたい気分だ。

「夏川カナコっていうんだって」

はぁ? それがどうしたんだよ。

俺は少しだけ混乱する。まるで、俺が訊いてこいと頼んだような、そんな気がしてくるような、そんな話し方をされた。

「なつかわ、か、な、こ、かぁ」

返事をしない俺をよそに、尚人はひとりごとのようにつぶやいた。

カナコ。その名前の響きで急に思い出した、昨日の手紙に書かれていた名前。

「なな子が小樽にいたらしい」

尚人の反応は、俺が思っていたどれとも違った。慌てもせず、大声を出しもせず、顔色ひとつ変えず、静かな調子で、さっき夏川カナコの名前をつぶやいたときのままふうんと頷いた。

どういうことだ? あんなになな子のことばかり見つめ続けて、考え続けてきたヤツが。

今すぐこの部屋を飛び出して、小樽行きの電車に駆け込むような、そのくらいのことはしかねないヤツだったはずが。

「なな子、逢いたくないんだろうな」

掠れた低い声で、尚人が呟く。

逢いたくない……誰に? 俺に。いや、俺たちみんなに。あの頃を思い出させる誰にでも。そうか、尚人は、なな子を思いやって、感情を抑えているのか。

でも、なな子、いつまでそうやっているんだろう。なんて弱い女の子。どうしていつも、そんなに傷つかなくちゃならないんだ。俺たちは、こうして普通に生活しているのに。

「夏川カナコって、どんな女?」

落ち込んだ空気を元に戻したくて、俺はわざと明るく尋ねてみた。

尚人は、静かに首を振る。伏せた瞳にかかる影。

「名前しか、知らない」

え? それは、どういう? 片想いってことか。いや、尚人の表情は、なんなふうじゃなくて、もっと彼女をよく知っているような、いや彼女に同情しているような、そんな感じ。

「なな子のこと、誰に聞いた?」

「ああ、愛穂から、手紙が来たんだ」

「おまえら、まだそんなことしてるのかよ。あいつ、元気なのか」

「たぶんな」

俺たちは、どういうわけか、傷ついていた。

愛穂の思い出話を少しして、それからふたりで黙っていた。

なな子はどうしているのだろう。夏川カナコは、尚人とどんな関係なんだろう。尚人は夏川カナコをどう思っているんだろう。未だに、尚人のことはよくわからなくなる。そもそも、夏川カナコって何なんだろう。顔を背けて消えていった女。長い髪、白い服の、あの女。

尚人は、新しく恋をしたんだろうか。

NO WOMAN NO CRY 4

愛穂を街で見かけた。

背の高い男と、楽しそうに笑いながら歩いていた。

つながれた手を見た。

昔、俺のことを好きだと言ってくれた女の子。未だにメールや手紙を時々くれる女の子。その子が今、別な男と、小鳥のように笑いさざめきながら、俺に気づかず通り過ぎてゆく。

あれから、4年も経つんだもんな。

うっすら化粧をした愛穂は、俺の知っていた後輩の愛穂とは違う女の子のようだった。

ちょっとだけ、時の流れを感じた。

。。。。。

夏川カナコを見かけたのは、夏に近づいた夕暮れ。河川敷にあるサイクリングロードをぼんやり歩いているときだった。

夏川カナコは、白いトレーニングウェアを着て、走っていた。長い髪の毛はきりっとポニーテールにされていて、それがゆらゆらと揺れていた。苦しげに半開きになっている、紅い唇、白い頬を流れる汗。

綺麗な女の子だったんだ。

ふとそう思う。眩しくて目を細めた。

その瞬間、彼女が消えた。

一体、何が? 目を見開くと、尚人が目に入った。正確には、尚人が、倒れかけた彼女を支えて、木陰の芝生の方に移動しているところが。

あいつ、いたのか。

声をかけるのもはばかられて、そっとふたりの様子を覗き見る。眠っているように動かない彼女。そんな彼女を労わるように、タオルで汗をぬぐってやり、静かに話しかけている尚人。そこだけ時間が緩やかに流れている。

覗き見ている自分が恥ずかしくなって、俺はそこから走り去った。



夢を見た。

ひとり、小樽の街を心細い顔でさ迷い歩いているなな子。あの頃と変わらない、きゃしゃな手足、ふわふわとしたくせっ毛。愛穂は、高校のときの制服姿で、俺にではなくあの背の高い男に笑いかけた。河川敷を夏川カナコが走っていた。白い服。彼女には白がよく似合う。ああ、俺は。もうひとり白がよく似合う女の子を知っている。あの子が夢に出てくるのは久しぶりだ。白い服を着たあの女の子に、俺は手を差し延べる。星野。忘れたはずだった。忘れたかった。でも、忘れられなかった。伸ばした手を握り返してくれた顔を見ると、星野だったはずが、泣き顔のなな子になり、愛穂に変わり、星野の恋人だった裕哉さんに変わった。裕哉さん。彼はギターをかばって、交通事故で亡くなった。なんであんなことになったんだろう。星野を奪われて、憎んだこともあったけれど、彼は本当にいい人だった。もういない。もう憎むことも、彼を超えることも、俺にはできない。その裕哉さんから、また星野に変わり、夏川カナコを労わる尚人の横顔に変わり、夏川カナコの白い服になって、世界がくるくると回った。

目覚めて、俺は吐いた。

昨夜、飲み過ぎていたことを思い出した。

ズキズキと痛むこめかみを押さえながら、この世の中には忘れたいことが多すぎると思った。今、夢に出てきたもの、全部忘れても構わない。忘れられればいいのに。忘れたいと思うことほど忘れられない。

二十二年。

俺が生きてきたのは、たったそれっぽっちなのに。

。。。。。

NO WOMAN NO CRY 5

久しぶりに、女とふたりで飲んだ。

女っていっても、古くからの友達だけど。

「なぁ、桃瀬。愛穂がさ、なな子のこと小樽で見かけたって言ってたんだけど」

「ふうん」

桃瀬はつれない。赤い色のカクテルを、同じ色の唇に運んでいるだけ。華奢なグラスは、桃瀬に似合っていた。

こいつは、一緒にいるのが俺、っていうのが申し訳ないくらい、綺麗で大人だ。性格はさっぱりしているから、喋ってしまえば男同士のように気楽に付き合っていられるけど。

「おまえ、なな子の居場所、知ってるんだろ」

桃瀬は、チラッと俺を見る。

「磯島が知りたがってるってわけ?」

「違うよ。あいつは最近、別なオンナと」

言いかけて、慌てて口をつぐむ。別につきあってるわけでもないだろう。

ただ、なな子のことに、関心を示さなかっただけだ。

「ねぇ、ノリ。どうしてひとは、ひとつのところにずっといられないんだろう」

桃瀬がぽつんとつぶやく。

「あたしたちくらいの年になってくると、思い出が重くなってくるよね」

「俺、最近そう思ったよ。忘れたいことが多すぎるって」

「そうだね。記憶の消しゴムがあってさ、嫌なことゴシゴシ消せたら、どんなに気持ちいいだろうね」

それきり急に黙り込んだ桃瀬を見ると、彼女は微かに瞳を濡らしていた。俺は驚いて、何か声をかけようと思うけれど、うまい言葉が出てこない。

自分が情けなくてむかついていると、桃瀬は少し笑った。

「いいよ、無理して喋らなくても。ノリはね、側にいてくれるだけでいいんだ。ノリだけは変わらないから、安心できるの」

言葉が見つからない。

桃瀬がこんなに弱いところを見せるなんて。

何があったというのだろう。

やっとの思いで、彼女の彼の名前を見つけて話してみる。

「そうだ。タク、どうしてる?」

言ってしまってから気がついた。桃瀬を泣かせる原因なんて、きっとタクにしかないってことに。

「……ごめん」

ううん、と桃瀬は首を振る。

そして、もう一度呟いた。

どうして、ひとは、ひとつのところに、ずっといられないんだろう。

。。。。。

NO WOMAN NO CRY 6

また、夏川カナコを見かけた。

彼女は、買い物帰りなのだろうか、手にビニール袋をさげている。初夏の光に照らし出されて、俺はまぶしさに目を細める。

前にもこんなふうに目を細めて、そしたらいきなり尚人が出てきたんだっけ。

ふと、そんなことを思い出す。もちろん、手品じゃないし、今日は出てこない。今日はバイトのはずだ。

夏川カナコはどんどん近づいてきて、俺は目を伏せる。すれ違う。どうしてか、息苦しい。心がぎゅっと摑まれたかのような。動きが、ぎこちない。

完全にすれ違って、数歩進むと、思わずふうっと息が出た。安堵の息だ。振り向きたいけど、振り向いちゃいけない気がする。

そのまま前に進んでいく。

「カナコさん」

この声は。

こんな掠れた声、あいつしかいない。

「女の子が、こんな重いもの持ってちゃ、駄目ですよ。俺、持ちます」

カサカサと、ビニール袋が擦れ合う音。動く気配。俺は少しずつ歩を進めながら、五感は頭の後ろに集中させていた。

尚人、何、甘ったるいこと言っているんだろう。まぁ、もともとそういうやつだったか。

でも、今日はバイトのシフトに入っていたはずなのに、なんでこんなところに。しかも、俺に気づかないで、彼女にだけ。

だけど、あの話し方。恋人ではなさそうだ。

変なふたり。

息苦しくなる。

いつのまにか立ち止まってた俺は、慌てて走って、逃げ出した。



「尚人。あの、夏川カナコとどうなってんだよ」

バイトの帰り道、尚人に問いかけた。

尚人は、途端に嫌な顔をして、俺を睨みつける。何だよ。俺も、面白くない顔になる。そんな俺を見て、あいつはため息をつく。

「悪いけど、放っておいてほしいんだ」

「つきあってるとか、そんなんじゃないのか」

「全然。何の関係もないよ」

。。。。。

2006年11月 2日 (木)

NO WOMAN NO CRY 7

夜、愛穂から電話が来た。

「先輩、お元気ですか」

元気な声。このまえの男のことを思い出した。

「背の高い男と歩いてるの、このまえ見たよ」

話の切れ間に口を挟む。愛穂は、えって言った後、くすくす笑い始める。そのくすくす笑いは、本格的な笑いになった。

むっとすると、それが気配で伝わったのか、愛穂は含み笑いを残して話し始めた。

「だって、徳大先輩、妬いてるみたいなんですもん」

妬いてる?

俺が、愛穂に? まさか。俺は事実を話しただけだ。

だけど。少し羨ましいかもしれない。恋人といる風景。その空気に、なんだか、愛穂の言うところの妬いてるみたいな態度になってしまうかもしれない。

「そうだ、このまえ、磯島先輩が綺麗な人と一緒にいるの、見かけましたよ。桃瀬さんにちょっとだけ似てるひと」

「ああ」

夏川カナコのことだろう。桃瀬に似てるかな。言われてみれば、目元が似ているかもしれない。

「磯島先輩、ちょっと変でしたよ」

「え?」

「なんだか、憧れのひとに一生懸命話しかけてる、みたいな感じ」

ああ、いつも俺が思っている、あの違和感だ。恋人同士のそれじゃない、もっと他人行儀な。

そこまで思って、ふと気がつく。そういえば、夏川カナコの声を聞いたことがない。あのふたりでいるときに、尚人の声しか聞こえてこない。だから、違和感があるのだろうか。

「やだ、先輩、急に黙って」

愛穂が拗ねた声を出す。このこはまだ、子供なんだな。しょうがないやつ。ふだんならかわいいと笑っていられるけど、今はなんだかウザい。

彼氏と仲良くしろよ、ひとこと付け加えて、電話を切る。

今はひとりで考え事でもしていたい気分だ。

でも、考えるって、何を。

……いいかげん、認めよう。俺は、確かに今、夏川カナコに興味を持っている。彼女のことを、考えていたい。



バイトの後、サイクリングロードを通るようになった。夏川カナコには、いつも逢えるわけではない。それでも、いつも、なんとなくこの道を選んでいる。

今日もふらふら歩いていると、尚人の声が聞こえた。川べりのススキの向こう側。何気なく気づかれないように近寄ってみてみると、やっぱり尚人は夏川カナコと一緒にいた。芝生の上、並んで体育座りをして、川と向き合っている。

不意に尚人が立ち上がる。

気づかれた? いやそうじゃない。夏川カナコに「見てて」って言うと、いきなり、倒立前転。

はぁ? 何やってんだ、アイツ。

でも、夏川カナコは笑顔で手を叩いている。尚人も照れ笑いを浮かべて、軽くデニムをはらうと、彼女の横に座りなおした。

俺は、昔の映画を見ている気分になった。

何か知らないけど、昔の純愛もの。

今日のふたりは、少し恋人のようだ。できたての初々しい恋人。ふわふわと温かさがふたりの周りを取り巻いているようで、微笑ましい。微笑ましくて、胸の奥をきゅんとつままれたような、泣き出したいような不思議な感情。尚人のことが、あの空気を作り出したことが、少し羨ましい。

俺は、音を立てないように、ゆっくりと遠ざかった。

夏の太陽が、ゆっくりと沈んでいく。

。。。。。

NO WOMAN NO CRY 8

先輩の店で、2、3ヶ月に1回させてもらっている、ミニライブ。

ひどく、バンドの音が合っていない気がする。いや、合っていないわけじゃあない、ミスしているわけでもない、きっと聴いてくれてる人たちは気付いてないだろう、だけどなんていうか……心が合っていない。楽しくない。

暁と何度か目を合わせる。

暁が、尚人の方に視線を走らせる。

ミスはしていない。だけど、今日の尚人はひとりで走っている。

5曲くらいやらせてもらって、控え室代わりの部屋に入っても、いつものような充実感や爽快感もなく、俺らはしばらく黙っていた。尚人は頭からタオルをかぶって、椅子の背にもたれている。

長く続けてれば、時にメンバーの誰かの調子が悪いことだってある。だけど、今日のは。違和感だけが残っている。

違和感といえば。俺は、いつも来る顔が見えないことに気付いた。

「タク、今日は桃瀬、来てないのか」

タクはぴくっと体を動かした。一瞬、憂鬱そうな顔をして、そのあといつものポーカーフェイスに戻る。

「ああ」

そして、ため息のように、言う。

「ノリ、最近あいつと逢ったんじゃないのか」

思い出した。桃瀬の泣き顔。桃瀬の言ってたことば、どうしてひとはひとつのところにずっといられないんだろう。ああ、そうか、俺。

「ごめん」

「いや」

タクが話し終わらないうちに、尚人がタクの前に立った。

なんだ、と思う間もなく、尚人の拳がタクの頬にとぶ。暁が慌てて、尚人を引き離す。尚人は、自分でも驚いているかのように、呆然と自分の拳を見つめている。タクは尚人から目をそらして、床を見ていた。

「……悪い、タク」

暁が尚人を座らせる。俺は、何をどうしたらいいのか、わからない。暁と目を合わせて、首をすくめる。タクは唇を噛んで、荷物を持つと外に出て行った。こいつらの間に、何があったっていうんだろう。いったい、何が。

桃瀬のことで?

だけど、尚人が桃瀬のことで逆上するなんて、考えられない。何か言うくらいなら、ともかく。

結局、原因はわからないまま、俺は尚人と帰り道を、黙って歩いている。尚人は、俺の少し前を、黙って歩く。何も訊いてほしくないときの、尚人のやり方だ。俺も、わかっているから何も訊かずに歩き続ける。

急に、尚人が立ち止まって、俺を振り向く。話しづらそうに、眉間に皺を寄せている。

「桃瀬、元気だったか」

「まあな。いや、いろいろあるだろうけど。あいつなら大丈夫だぞ、きっと」

違う。

尚人は、桃瀬のことを訊いているけど、桃瀬のことを心配はしているだろうけど、今は桃瀬のことを考えているわけではない。遠い目をして、いったい何を思っているんだろう。上の空に俺の返事を聞き流している。

「おまえ、何考えてるんだよ」

つい、口からこぼれ落ちた、素朴な疑問。

尚人は、口元に苦い笑いを浮かべる。

「いや、あのときはただ、タクのことが許せなかった。桃瀬がどうこうっていうんじゃないんだけど。どうしても、駄目だった。悪かったな」

「何か、あったのか」

尚人はもう、答えなかった。

黙って俺たちは、いつもの河川敷を歩いていた。



桃瀬から電話が来た。

「磯島、卓士のこと殴ったんだって? ばっかだねぇ、あいつ」

桃瀬は、カラカラと笑っていた。

「おまえ、大丈夫なのか」

「うーん。ひとりで寝るのは寂しいかな。ノリ、添い寝してくれる?」

「ふざけるなよ。心配してるのに」

ちょっとムッとして言うと、桃瀬は笑って、そのあと泣いた。抑えてたものこみ上げてきたかのように、いっぱい泣いた。初めて聞く、桃瀬の泣きじゃくる声。頼りない気配。受話器越しでは何もできなくて、ただ黙って聞いているだけの俺。

いっぱい泣いた桃瀬は、そのあとまた少し笑って、言った。

「卓士が殴られたとこ、見たかったよ」

そしてまた、泣いた。

。。。。。

NO WOMAN NO CRY 9

1ヶ月が過ぎた。

夏がじりじりと暑さを増している。

俺は、久しぶりに桃瀬に呼び出されて飲んでいた。桃瀬は少し、髪形を変えていた。

「おまえ、ちょっとイメチェン?」

訊いてみると、桃瀬は笑って俺の背中を叩いた。

「やだ、ノリ。考えすぎだよ。暑くなってきたから、ちょっと軽くしただけ」

「ふうん。そんなもんなんだ。じゃあ、もっと短くすればいいのに」

桃瀬はくすくす笑って、髪の毛をサラサラかきあげる。桃瀬には、やっぱり長い髪の毛が似合っている。

そういえば、初めて逢ったときには、髪の毛が真赤だった。なんだったんだろう、アレは。次に逢ったときには、今みたいな感じだった。黒くて、サラサラして、いい匂いのするような髪って、男から見ればいいなって思う。

そういえば、なな子がいつも言ってたっけ。桃瀬の髪の毛羨ましいって。あの子はくせっ毛だったから、いつもそれを気にしていた。

「何、遠い目して」

「ん? ああ、ちょっと」

桃瀬は、相変わらず綺麗だ。長い付き合いだった恋人と別れたばかりとは思えないくらいに。

でも、その綺麗な頬をつついたら、涙がこぼれ落ちるのかもしれない。ほんのり酔った桃色の頬は、もしかしたらチークパウダーの色なのかもしれない。

「何よ。本当に変なノリ」

桃瀬が怪訝な顔で俺を見る。たしかに、ぼんやりずっと黙って顔見てた。変、だよな。思わず吹き出した。

「悪い。おまえ、綺麗だよなって。もったいないなって思ってた」

「もったいない?」

「一緒にいるのが俺でさ」

桃瀬は、ううん、と大きなかぶりを振ると、俺の腕に抱きついてきた。

酔ってる?

友達のはずなのに。俺の胸は急に高鳴ってくる。最近はこんなに女の子とくっついたことなんて、なかった、だからだ。桃瀬だからドキドキしてるわけじゃあない。でも、急に意識してしまう、桃瀬は女の子なんだ。頬が赤らむ。

すっかり舞い上がっておどおどしていたから、しばらく気付けなかった。桃瀬が微かに震えていること。

「桃瀬?」

彼女は静かにしゃくりあげた。

「ノリ、あたし。苦しい」

頑張ってたんだよな。明るく振る舞って。可哀想に。

俺は、彼女の髪の毛を、そっと撫でる。

今度はきっと、大丈夫だから。桃瀬はいい子だから。絶対幸せになるよ。いいって顔のこと、だって? 顔もそりゃ、いいけど。スタイル? 見せてもらったことないな。でも、いいんじゃないのか。そんなんじゃなくってさ。俺、おまえのこと好きだよ。その、男と女っていうんじゃないけど。大切な友達だよ。いい子じゃなくても友達かもしれない、だって? そんなことないよ。俺、性格のいいヤツとしかつるまないって。え、磯島? 尚人か。あれは特別だよ。ガキのころから一緒だからな。それに、俺はあんなのと友達になりたくなかったんだぞ。だって、転校生だった俺のこと、年下だって教室から締め出そうとしたんだぜ、小学校2年のとき。1年生の教室はここじゃないって。そりゃ、俺チビだったし、アイツはでかかったけど、でもさ。おい、笑いすぎだぞ。俺マジで怒ったんだから。そんなに、おかしいか?

「ノリは本当に優しいね」

桃瀬のくちびるが、俺のくちびるに触れるのを、感じた。



『このまえはありがとう。元気でたよ』

桃瀬から、そっけないくらい短いメールが入っていた。

あいつにとって、あのキスなんて、きっとそんなものだったのだろう。俺は一瞬、友達としての自分を失うところだったけれど。

ちぇっ。

別にいいか。桃瀬はやっぱり、大切な友達だ。

。。。。。

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